貿易赤字は国にとって「損失」ではない
国民は生産した以上に「豊かな生活」!?

 対外赤字の継続がアメリカにとって望ましいことを理解するには、国内総生産(GDP)や国内総支出、輸出入などの関係を示す以下の式から出発するのがわかりやすい。

国内総生産+輸入=国内総支出+輸出  (1)

(1)式の左辺は、一国の経済活動を供給面から捉えたものだ。国内総生産とは、さまざまな産業で生産される付加価値の合計額と資本減耗引き当て(減価償却費)の和だ。右辺は需要面で、国内総支出とは、家計消費支出、住宅投資、企業設備投資、政府支出などだ。

(1)式は、国内で生産される付加価値と(他国の生産である)輸入によって、国内の支出と輸出が可能になることを示している。この関係は、一定の期間の事後的な関係式として、常に成り立つ。

 では、国民生活の豊かさは、(1)式に登場する変数のどれによって最もよく表されるのだろうか? それは国民1人当たりの国内総支出だ。国民の生活は、消費支出や住宅投資などの支出が多いほど豊かなものとなるからだ。

 したがって、人口を所与とすれば、国内総支出が多いほど国民は豊かだと考えることができる。

 ところで、(1)式を変形すると次の式になる。

国内総支出=国内総生産+経常赤字  (2)

 だから、国内総生産が所与であれば、経常赤字が大きいほど国内総支出が大きくなり、したがって国民は豊かだと考えることができる。

 経常赤字が大きければ、国内で生産した以上に消費や投資ができるのだから、当然のことだ。

 ただし問題は、経常赤字を継続的に続けることができるかどうかだ。

 国際収支において、次の関係がある。

経常収支の赤字=金融収支の黒字  (3)

 この左辺と右辺は次のように置き換えられる。

経常収支=貿易収支+サービス収支
金融収支= 海外資産からの収益+対外借り入れの増加+海外資産の取り崩し

 経常収支の赤字が続き、しかも、海外資産からの収益だけでそれを賄うことができないとすれば、海外資産を取り崩すか、海外からの借り入れを増やすしかない。しかし、そのような国に投資するのは極めて危険なことだ。対外資産が減少して、それを返済することができないような事態に陥る可能性が高いからだ。だから、借り入れを増加し続けることができなくなるだろう。

 したがって、赤字をいつまでも続けることはできない。対外収支の赤字とは、極端にいえば「働かないで食べていける」ということだ。そんなうまい状態をいつまでも続けられないのは、当然といえば当然のことだ。

 この意味で言えば、対外収支の赤字は望ましくない。そして、さまざまな手段を使って黒字化を達成すべきだということになる。

米国に対する信頼があるから
米国は対外赤字を続けられる

 ところが、アメリカの場合には、対外経常収支の赤字が継続している。なぜ継続しているかといえば、アメリカに対する投資が継続しているからだ。

 これは、「アメリカのドルが基軸通貨であるためだ」と説明されることがある。そのため、アメリカ以外の国の政府や中央銀行は、国際的な支払い手段としてドルを保有する必要があり、そのために、アメリカ国債の保有を増やし続けるというのだ。

 しかし、これは表面的な理解だ。