「生涯の一冊」と
どう出会うべきか
ただ数ある文庫のなかで、わたしは岩波文庫が一番好きである。
しかも、わたしには生涯の一冊という希望があった。
映画『野のユリ』のなかで、シドニー・ポワチエ青年がつねにジーンズの上着の胸ポケットに入れていた、豆本の『聖書』みたいなものである。
岩波文庫版『吉本隆明詩集』がそれに相当するのではないか、と思った。サイズも内容も最適なのだ(もう少し分厚くてもよかった)。
ほんとうは逆である。
好きで好きでたまらない本──おびただしい書き込みがあり、付箋(ふせん)をつけ、すりきれた本が、生涯の一冊になるべきである。
マラソンランナー瀬古利彦の師匠だった中村清や、最後の海軍大将井上成美にとっての『聖書』のように、である。
それが、わたしは、最初から「この本」と決めようとしている。
だがいいのである。
そのような本になっていけばいい。
もしそういう本になれなかったら、それだけのことだ。
わたしが悪いだけのことである。急いで市内の本屋2カ所にいったが、なかった。
しかたないのでアマゾンで頼んだ。翌日届いた。
カバーには、たぶん東洋インキに勤めていた頃と思しき、吉本青年の写真が載っていた。懐かしい。12年ぶりの吉本さんだ(ハルノ宵子の『隆明だもの』は読んでいたが)。
表紙を外した。わたしは、裸の文庫が好きなのである。
これから必携して、ことあるごとにすこしずつ読んでいこうと思う(まだ、必携していない)。
わたしははっきりいって、吉本の詩を全部読んでいないのである。
少年時代に貸本屋で借り
夢中で読んだ漫画の数々
わたしが漫画を読み始めたのは、小学2、3年の頃だった。
『少年』という雑誌を毎月買ってもらっていたが、もっぱら貸本屋で借りるのが多かった。さいとうたかを(もちろん『ゴルゴ』ではない。『黒い子猫』とか)、辰巳ヨシヒロ、K・元美津、石川フミヤスの名前はそのときに覚えた。
『赤胴鈴之助』や『イガグリくん』『ストップ!にいちゃん』などの連載漫画はいまでも覚えている。
寺田ヒロオの『スポーツマン金太郎』や横山光輝『鉄人28号』もおもしろかった。