
1990年代末にMBO(経営陣による企業買収)を実施し、再上場後も貴金属めっきの高い技術力で存在感を放つ日本高純度化学。しかし今、その経営を長年支配した渡辺雅夫取締役相談役こそが業績低迷の最大の要因だとして、投資ファンドのひびき・パース・アドバイザーズが渡辺氏の人間関係までを追及する異例の公開キャンペーンに踏み切ることが分かった。ダルトン・インベストメンツ東京子会社の元社長であるファンド代表を直撃し、フジテレビの“日枝帝国”とよく似た権力構造の実態を激白する。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
「ITインフラの小さな巨人」栄光と凋落
取締役相談役を投資ファンドが痛烈批判
1990年代末、MBO(経営陣による企業買収)は日本企業にとってほとんど前例のない手法だった。
これを1999年にいち早く実行したのが、電子部品の接点や接続部に用いる貴金属めっきの化学メーカー、日本高純度化学だ。当時のMBOを主導したのが、20年以上にわたって同社の代表権を持ち、現在は取締役相談役を務める渡辺雅夫氏である。
渡辺氏主導のMBO後、2002年にJASDAQ上場、3年後には東証一部へ昇格を果たし、第二の成長期をもたらした。『週刊ダイヤモンド』(2003年2月15日号)では、携帯電話や液晶ディスプレーの急拡大を追い風に、半導体搭載基板のめっき液で世界シェア70%以上を誇った同社を「ITインフラの小さな巨人」と紹介。当時、社員数わずか27人ながら、世界の市場で圧倒的な存在感を示していた。
しかし現在、その輝きには陰りが見え始めている。
業績・株価は長期にわたり低迷し、ROE(自己資本利益率)も低水準のまま推移。こうした状況に対し、3年連続で株主提案を行っているのが、シンガポールを拠点とする投資ファンド、ひびき・パース・アドバイザーズ(以下、ひびき)だ。ファンドを率いるのは、ダルトン・インベストメンツ東京子会社の元社長で、現在は3Dインベストメント・パートナーズの推薦により富士ソフトの社外取締役も務める清水雄也氏である。
同ファンドは2018年に日本高純度化学への投資を開始。2020年以降、持株比率を引き上げて投資を本格化し、23年以降はDOE(純資産配当率)5%の導入や自己株式取得、役員報酬のROE・TSR(株主総利回り)連動など、株主提案を相次いで打ち出した。
そして今年、ひびきのターゲットは経営の中枢に向かうことが分かった。矛先を向けたのが、渡辺雅夫取締役相談役である。
ひびきは、フジ・メディア・ホールディングスで取締役相談役として実権を握っていた日枝久氏と同様、渡辺氏を“影の支配者”と見ている。今後、渡辺氏を支持する取締役メンバーの出身企業や人間関係も含めて徹底追及する異例の公開キャンペーンに踏み切る構えだ。
次ページでは、清水氏が渡辺氏との対話で抱いた強烈な違和感、現社長・小島智敬氏との面談を通じて浮かび上がった「社内の力学」、さらに、みずほ銀行出身者や渡辺氏の義弟らによって築かれた支配構造について、清水氏が直撃インタビューで明かす。