重工大手がわが世の春を謳歌している。防衛予算が膨らんでいる上、民間航空機のエンジン部門が好調なためだ。米航空機大手ボーイングの業績不振で機体の新造が鈍る一方、アフターサービスなどで中長期的に収益を得られる航空エンジンが存在感を増している。ただ、三菱重工業と川崎重工業、IHIの重工3社でもその恩恵は異なっている。背景には3社のビジネスモデルの違いがある。特集『株価、序列、人事で明暗! 半期決算「勝ち組&負け組」【2024秋】』の#7では、重工大手の三者三様の“航路”を観測する。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
株価値上がり上位に重工3社
ボーイングの業績不振が逆風
投資家が熱視線を注ぐのが「防衛銘柄」だ。10月末時点において、日経平均株価を構成する225銘柄中の株価上昇率で、IHIが2位、三菱重工業が3位、川崎重工業が7位に名を連ね、重工大手3社が上位を席巻した。米大統領選挙で再選されたトランプ氏が日本に対して防衛費負担増を求めることも予想され、各社の株価が高止まりする流れは今後も続くとみられる。
防衛特需に輪をかけて業績を押し上げているのが、民間航空機向けエンジン部門の好調だ。大手3社はいずれも2025年3月期中間決算で、この部門の売り上げ増を業績好調の要因に挙げた。
新型コロナウイルス感染拡大からの反動で航空業界の需要は右肩上がりとなっている。日本航空宇宙工業会によると、19年の航空機の合計生産額は1兆8000億円超だったが、コロナ禍で21年は9500億円まで落ち込んだ。コロナ禍が終息した23年には回復基調に乗って同生産額は1兆4000億円を超え、今年は1兆8800億円とコロナ禍前の水準を見込む。
ただし、航空機産業の景況感に水を差すのが米航空機大手ボーイングの経営不振だ。9~11月はシアトルの工場で大規模なストライキが続いた。終息こそしたものの、4年間で38%もの大幅な賃上げが交渉妥結の条件となっており、同社の趨勢は楽観視できない。こうした状況が機体の製造に影を落としているのだ。
日本の航空機産業とボーイングの関係は深く、中型機の787は機体の35%を日本のメーカーが製造している。民間機が重工大手にとって重要な市場なのは共通している。ただし、重工3社が受けるボーイングの不振の影響は大きく異なっている。理由は、その稼ぎ方の違いにある。しかも、実は、重工3社では規模で劣るIHIのビジネスモデルの優位性が高いのだ。次ページで、3社の航空機事業のビジネスモデルの違いを解説する。