こんな面白い話もありますよ。数年前、私が台湾から日本に向かう飛行機の中で、若い男性と席が隣になり、会話が始まりました。日本に何をしに行くのか尋ねると、彼は「イタリア料理を学びに行く」と答えました。私はびっくりして、「日本でイタリア料理を学ぶのかい?イタリアに行ったらどう?」と聞くと、「日本の方がお得に学べる」と言うのです。台湾の人は日本語の理解が早いですし、何より、日本のイタリア料理は最高です。

 パンもそうです。アジアの若いパン職人が、フランスでもスペインでもなく、日本へ行くと聞きます。日本のパン作りは質が高いからです。アジアで、日本は日本料理以外の食べ物の技術や生産の聖地になっている。

 ラーメン学校でラーメンの作り方を学ぶために日本に来る外国人もいます。私が初めてラーメンについて書いた20年前、西洋でラーメンはそれほど知られていませんでした。さらにその前は、誰も日本食を美味しいとは思っておらず、生食を含めて奇妙だとすら思っていました。本当に、大きな歴史的変化です。

バラク・クシュナー/ケンブリッジ大学教授バラク・クシュナー/1968年アメリカ生まれ。プリンストン大学で博士号を取得。デイヴィッドソン大学歴史学研究科、アメリカ国務省東アジア課などを経て、ケンブリッジ大学アジア・中東学部日本学科教授。著書に、Yoichi Funabashi and Barak Kushner, eds. Examining Japan's Lost Decades. London: Routledge共著、邦訳:船橋洋一編著『検証 日本の「失われた20年」日本はなぜ停滞から抜け出せなかったのか』(東洋経済新報社、2015年)、『思想戦――大日本帝国のプロパガンダ』(明石書店、2016年)、『ラーメンの歴史学――ホットな国民食からクールな世界食へ』(明石書店、2018年)などがある。

――日本の調理法について、他国と比べて日本は独特ですか?

 日本の料理人は調理から盛り付けまで細部へのこだわりがありますね。細部にこだわるのは歴史的に見て、他のどの国よりも日本的な文化です。

 中国人はテーブルに大きな皿を置いて、皆で分け合って食べます。その文化は日本にも伝わりましたが、一方で日本は歴史的には、「お膳」の文化です。一人前の分量は決まっていて、他の人の食べ物には手を出さない風潮があります。一人前に分けてあるから盛り付けにもとても気を配っています。

 ただ、強いこだわりのせいで、料理屋や寿司屋で弟子が見つからないという問題を引き起こしている気もします。長い時間をかける修行制度において、若い人たちは、大将が許可を出すまでひとつのことをやり続けたくないようです。そのため、多くの店が次世代の人材を見つけることができません。

 若い世代の時間に対する価値観の変化もあります。ですから、世代が変わるにつれて、日本料理の調理法や技術も進化していくと思います。