
裕福な家庭の子女が通うエスカレーター校のイメージが強い成蹊学園。親子そろって成蹊出身といった強い支持を持つ一方で、小学校から大学まで一貫で教育を受けることへの縛りが実は緩い。「内推併願制度」の下、大学への内部推薦の権利を持ったまま、外部受験ができるのだ。なぜ、優秀な生徒が外に出やすい仕組みを導入したのか。連載『教育・受験 最前線』では、江川雅子学園長が内部推薦と外部受験の両てんびんを認める“深い理由”を明かす。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)
100年前に開校した旧制の成蹊高校は
帝国大学へ進学するルートだった
――今春配信した特集『名門エスカレーター校 クライシス』で、成蹊学園、成城学園、玉川学園、和光学園の4学校法人を取り上げた記事はとくに読まれています(『成蹊、成城、玉川、和光は生き残れるのか?「小さい名門エスカレーター校」実力比較の明暗』参照)。「早慶」(早稲田大学、慶應義塾大学)「MARCH」(明治大学、青山大学、立教大学、中央大学、法政大学)に比べて規模が小さくて卒業生数も少ないので、反響の大きさに驚きました。
卒業生の愛校心が強いんです。OB・OGの結束力が強いことで知られる慶應義塾出身の友人にまで、成蹊学園は母校愛が強いと太鼓判を押されました。
――小学校から大学までの一貫教育にファンがついている。
一貫教育を行っていますが、中高から大学への内部進学比率は約3割なので、エスカレーター校っていう感覚、実は私たちには特にないんです。大学を主として付属校を連ねているところとは出自が違い、小学校、中学校、高校が大学より先に開校しています。小学校だけ、中高だけ、あるいは大学だけ成蹊という卒業生も多いですが、みな母校愛が強く、仲が良いです。
100年前に開校した7年制の旧制高等学校(現在の中学、高校、大学の教養課程に相当。私立は成蹊、成城、武蔵、甲南の4校)は帝国大学へ進学するルートで、経済的に余裕があって教育熱心な家庭や医師の子女などが通いました。戦後に大学を開いた際も、医科大学に進学する前に教養を学ぶプレメディカルコースを設置して医学部へと送り出した。
今も成蹊高校からは毎年20人、30人が医学部に合格していますし、医学部以外でも外部の大学を受験する生徒が多くいます。
――お話を聞くまでは、小学校、中学校から大学まで成蹊学園で一貫教育を受けることに価値を感じる人たちが多い印象でした。
それもまた真実で、両面あるんです。本人だけでなく成蹊出身の親御さんも成蹊愛をお持ちだったり、教育理念に共感してどんなに成績が良くても外に出ないという生徒さんも多い。
――小学校から大学まで通う生粋の成蹊育ちって、どのくらいいるんですか。
次ページでは、一貫教育を受けて大学まで通う生粋の成蹊育ちの実態とともに、内部推薦の権利を持ったまま外部受験できる制度を導入している“深い理由”を江川学園長が明らかにする。また、小学校における共働き家庭の実情を語った。