「学歴だけで終わる子」と「社会で生き残れる子」の決定的な違い【進学校の校長が教える】ハウス(寮)行事に沸く生徒たちのひととき

今の時代に欠けている
「諦めない姿勢」が強み

西村 当然中学1、2年生の間は誰かのことが苦手だとか、嫌いということも多いんですが、よくよく考えたら、相手が嫌だということは、絶対に自分にも嫌なところがあって完璧じゃないよね、相手が嫌だから排除するということをした時点で、自分も排除されなくちゃいけなくなるよね、ということも分かってくる。

「彼のここが悪いんです」と子どもが言ってきたときに、「じゃあ、君は完璧なのか」と返す。フロアマスターやハウスマスターが上手にサポートして、お互いが理解し合う場面をたくさん作るようにしています。

渋田 創立20年で卒業生の厚みも出てきたかと思います。海陽学園の「ゴール」はどこに置いていますか。

西村 現在、卒業生が1500人に近くなり、卒業生たちは橘会という同窓会を作っています。歴代のフロアマスターのOBも含めて、日本全国の大企業、中小企業、様々な職業で活躍する人材のネットワークができつつあります。

 卒業生たちには、同窓会が学校を支えるとか経営を助けるとか、そんなことはしてくれなくていい。それより何より「あなたたちがプレーヤーとなって、社会を動かす側になってほしい」と伝えています。

 私たちは激変していく世界に柔軟に対応しながら、一生懸命教育して、橘会を通じて社会に送り出していく。海陽学園そのものは人材輩出機関でしかない。私たちの目標は卒業生に日本を引っ張るリーダーになってほしいということなので、もし本当に社会を変えるようなスーパースターが出てきたとき、卒業生が一緒に支え合える関係ができれば理想的です。

 社会に貢献したいと思った子たちが橘会を目指して入学してくれる学校になることが私たちの夢です。

 今はまだ卒業生の最年長が32歳なので、成果が見えるのはもっと先でしょう。ただ、社会人になったOBの話を聞くと、同僚と比べて「諦めない姿勢」が身についていると感じます。社会に出れば、自分よりすごい人はいくらでもいる。ただ、企業でプロジェクトを任されたとき、とことんまで努力して全力を出し切ったとしても、計画通りにいかないということは往々にしてある。

 そんなとき、すごく優秀な人でも、「精一杯やってだめだった、もうこれ以上はできない」と諦めてしまう。海陽学園の卒業生は「もう一回やればいいじゃん」「手伝うから、また一緒にやろうよ」と、諦めることが不思議に思えると言うんですね。これはまさに海陽学園での生活の賜物なんですよ。

 一般に今の子どもは負けたり失敗したりする経験が圧倒的に少ない。けれども、海陽学園での寮生活では日々トライアンドエラーを繰り返して失敗に慣れているから、一生懸命やってだめだったとしても、力尽きることなく、何度でもやり直そうと思えるんです。

 今や学歴だけでは、社会で生きていけないのは明らかで、実際にトヨタでも、「生き残れる人」でなければ採らないと言っている。一緒に働くメンバーとして苦労していない人は困るというわけです。