ガンダム・ジークアクスの舞台裏#6Photo:SOPA Images/gettyimages

特集『ガンダム・ジークアクスの舞台裏』(全12回予定)の#6は、40年のガノタ歴をもつライターが読み解くガンダム作品と文化史の後編をお届けする。ガンダムには本特集#5で登場した宇宙世紀とは異なる世界線、通称「オルタナティブ」世界で展開する作品も多い。平成そして令和に至るまでの新しいガンダム作品はどのようなものか。ガノタライターの追浜β氏が、その時々の世界の影響も考察しながら読み解く。(フリーライター 追浜β)

90年代以降広がった、ガンダム世界の「オルタナティブ」
1994~99年:「G」「W」「X」の平成3部作が登場

 ガンダムには大きく分けて二つの系統がある。まずは本特集#5で取り上げた、1979年の「機動戦士ガンダム」から始まった「宇宙世紀(U.C.)」の系統だ。一方、90年代に登場したのが、宇宙世紀と異なる世界を舞台にした作品群で「オルタナティブシリーズ(アナザーガンダム)」と呼ばれる。ガンダムの名を持つ機体は登場するが、宇宙世紀とは別の時間軸や独自のSF設定である。今回はこのオルタナティブ作品群にスポットを当ててみよう。

「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」で、アムロ・レイとシャア・アズナブルの物語が一区切りついた数年後、ガンダムシリーズは新機軸の展開に踏み切った。

 これまでの重厚な戦争ドラマから一転、「機動武闘伝Gガンダム」(94年)は、なんと格闘技をテーマにした作品として登場したのだ。続く「新機動戦記ガンダムW」(95年)、「機動新世紀ガンダムX」(96年)も、宇宙世紀の作品とは異なるアプローチで、ガンダムシリーズの新たな可能性を広げた。この3作品は「平成3部作」としてファンに親しまれている。

 この多様な展開を総括したのが99年の「∀ガンダム」だ。「ターンエーガンダム」と読む。ターンエーには最初のA(アルファベット)に戻るという、再出発の意味が込められているという。「過去のガンダム文明が神話として語られる」という設定で、宇宙世紀もオルタナティブも包含する統合的な世界観を提示した。

 同作で印象的なのは、主人公が作中で名乗る「ローラ・ローラ」という名前の響きである。彼の本名は「ロラン・セアック」だが、「貴婦人」として行動する場面でこの名前が与えられる。

 こうした名前の音の重複は、実はガンダムシリーズでは珍しいものではない。たとえば、「ランバ・ラル」(機動戦士ガンダム)、「ライラ・ミラ・ライラ」「カクリコン・カクーラー」(機動戦士Ζガンダム)、「ラカン・ダカラン」(機動戦士ガンダムZZ)、「ジュンコ・ジェンコ」(機動戦士Vガンダム)などが挙げられる。どれも語感が素晴らしく、何度も声に出したいキャラ名である。名前を二度呼ぶだけでガンダムらしさが成り立つというのは発明と言っていい。

 そもそも「ローラ・ローラ」命名の背景には、味方の市民軍が「女性も前線で活躍している」といった実績を示すため、ロランを女性枠に強引に入れた事情がある。これは現代の視点で読み解くと、実態を伴わず役職名や制度だけで女性活躍を演出する社会の縮図と重なって見える。その意味で、皮肉の効いた描写として受け取ることもできるだろう。だからこそ「ローラ・ローラ」は、冗談のようでいて含蓄に富み、ガンダム史においても一際ユニークなキャラクター名となっている。

 

大成功を収めた79年の機動戦士ガンダム後の「宇宙世紀作品」が一段落すると、1作目とは異なる世界線設定でのガンダム作品が大量に登場する。次ページではこれらの作品群を系統立てて整理し、さらに当時のファンの反応や社会との関係性についても詳しく紹介していく。また、これからガンダムを深掘りしたい方が、どの作品から楽しめばいいのかの観賞術もお伝えする。前編に引き続き充実のガンプラ年表も必見だ。