オンラインフォーラムは、そのスキルを学べる可能性のあるプレイヤーのネットワークを大きく広げた。

 1990年代には、上達するための学びが得られる相手は、友人の輪に限られていた。テトリスがとても上手な人物をたまたま知っていれば、いくつかコツを学べるかもしれない。しかしそうでなければ、何年プレイしたとしても、このゲームのより繊細な側面に気付かないままになる可能性がある。

現代では新米のプレイヤーも
最高のゲーム攻略法を学べる

 ハリー・ホンは2010年のドキュメンタリーで、彼が好んでいた戦略は画面の右側にブロックを積み、左側に隙間を残すことだったと明かしている。これは現在、劣った戦略だと考えられている。

 テトリスの回転アルゴリズムには癖があり、最も重要な棒型のブロックを回転させて移動させるのは、左方向よりも右方向の方が容易なのだ。

 かつてのトッププレイヤーの1人、ダナ・ウィルコックスは、ピースを両方向に回転できることさえ知らなかった。そうした知識のギャップがあったため、彼女は「Tスピン(T字型ブロックを最後の瞬間に回転させ、通常は不可能な位置にはめ込む技)」のようなトリッキーな操作をできなかった。

 現在では新米のプレイヤーでも、最高の戦略を簡単に見つけることができる。たとえそれを習得するのに相当な練習が必要だとしても。

マジか…「テトリス」で不可能と言われた「レベル29」に達する人が続出するワケ『SENSEFULNESS(センスフルネス) どんなスキルでも最速で磨く「マスタリーの法則」』(スコット・H・ヤング著、小林啓倫訳、朝日新聞出版)

 今日のテトリスプレイヤーたちが以前より優れているのは、効率の良い「観察・練習・フィードバック」を可能にする環境があるからだ。動画ホスティングサービスにより、最高のプレイの詳細な内容を広く配信できるようになった。オンラインフォーラムは、非公式な形で行われていた会話を永続的な知識の貯蔵庫へと変えた。

 そしてライブストリーミングはその配信者にとって、視聴者から瞬時にフィードバックを得られるなど、効果的な練習の場となっている。

 ジョセフ・セーリーのようなプレイヤーは確かに称賛に値するが、結局のところテトリスの事例は、個人についての物語ではない。それはゲームそのものについての物語であり、そのプレイ方法がいかに進歩を加速させたかについての物語なのである。