まるでトランス状態にあるかのように、セーリーは指を動かして、コントローラーのボタンを1秒間に10回以上叩く。彼は各ブロックを完璧に配置し、新しいブロックが画面を埋め尽くさないよう、素早く空間を確保する。
数分後、彼は初めてミスを犯す。間違えて配置された1つのブロックが列の上にそびえ立ち、瞬く間にブロックが画面を埋め尽くしてゲームオーバーとなった。にもかかわらず、セーリーは笑顔を浮かべている。彼はレベル34にまで到達したのだ。
これはテトリスという、史上最も人気のあるビデオゲームのひとつの30年にわたる歴史の中で、誰も成し遂げたことのない快挙だった。そのときセーリーは、まだたったの18歳だった。
「レベル29」でプレイするのは
絶対不可能だと思われていた
ジョセフ・セーリーがテトリスの達人であることは間違いない。しかし驚くべきは、このゲームに夢中になった第1世代のプレイヤーたちを、彼がはるかに凌駕していることだ。
レベル29でプレイするのは長らく不可能だと考えられてきた。ブロックの落下する速度があまりに速いため、左右のボタンを押し続けても、ブロックが底につくまでの間に端まで移動させることができないのだ。
ブロックを消すにはそれを水平に1列並べる必要があるため、ファンたちはこのレベルを「キルスクリーン」というニックネームで呼び、プレイ不可能とみなしていた。また、1回のプレイで最高スコアの99万9999点を達成することも、初期のプレイヤーたちが長年追い求めた偉業だった。
しかし最初にこの「マックスアウト【スコアが到達可能な最高得点に達すること】」が記録されたのは、ゲームの発売から20年後、ハリー・ホンが最高得点に到達したときである。
対照的に、セーリーは2020年のあるトーナメントにおいて、12回もマックスアウトを達成している。さらに言えば、セーリーのテトリスの腕前が特別というわけでもない。同じトーナメントで、40人もの別のプレイヤーが最高得点に到達していたのである。
では、全盛期をとうに過ぎたゲームが、どうしてこれほど優れたプレイヤーを生み出すのだろうか?