「不安を消せる、こんな簡単な方法がありますよ」という本と、「人間の不安というのは根源的な問題であり、大変なことなのだ」と書いた本があるとします。
さらに、後者には「生きるということをなめてはいけないよ」というようなことが書いてあったとしましょう。そうした時に、読者がどちらを買うかといえば、多くの人が不安を消す簡単な方法を書いてあるほうを手に取りがちです。
消費社会はとにかく物を売ることを優先するので、「これを買えば、こういうことが可能」ということを散々宣伝します。まるで当然のことのように、いかに容易にその不安が解決できるかを示し、これを買えば「こんなにいいことがあるよ」と売り込みます。
しかし、そんな魔法の杖のようなものはありません。よく考えれば分かることですが、もし「こうすれば幸せになれますよ」ということが本当なら、人類はとっくの昔から幸せになっているはずです。
そのような、ないはずの魔法の杖を売っているのが消費社会なのです。こうすれば幸せになれる――そんなことをしたって、幸せにはなれるわけがないのに、いかにして安易に望むものが手に入るか、ということを競って売っているのです。
「自分大好き」「親大好き」
そのまま成長しちゃっていいの?
人生の課題の1つにナルシシズムがあります。
人は誰もがナルシシズムを持って生まれてきます。生きていく過程で、そのナルシシズムを昇華し、克服して、我々は成長していくわけです。
人間が成長していくためには、その時期、その時期でどうしても解決しなければならない課題がありますが、このナルシシズムを解消することで精神的に成長していくのもその1つです。
ところが、世の中には、この克服すべきナルシシズムを満足させるようなものがたくさんあります。「このバッグを持ったら、すてきですよ」というのは、まさにナルシシズムを満たしてくれる商品の1つです。