銀行・証券・信託 リテール営業の新序列#11Photo by Yoshihisa Wada

法人向けのホールセール部門で国内トップクラスの実力を誇る一方、個人向けのリテール部門では長らく競合の後塵を拝してきたみずほ証券。みずほフィナンシャルグループの木原正裕社長が「もう一度リテールの旗を揚げる」と宣言する中、証券を率いる浜本吉郎社長は、復活に向けた具体的な戦略地図を描く。鍵を握るのは、楽天証券、みずほ銀行、そして証券の専門部隊がそれぞれの役割を全うする新体制の構築だ。特集『銀行・証券・信託 リテール営業の新序列』の#11では、リテール復活への道のりについて浜本社長がその全貌を語った。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

リテール復活への「現在地」
眠れるDNAと王者・野村との巨大な壁

――みずほフィナンシャルグループの木原正裕社長はダイヤモンド編集部のインタビューで「もう一度リテールの旗を揚げる」と発言しました(本特集#9『みずほFG木原社長が「リテールでもう一度旗を立てる」と逆襲宣言!ソフトバンク、楽天ら他社協業で挑む“リテールのDNA”復活の全貌』参照)。浜本社長も同じ認識をお持ちでしょうか。

 木原と完全に同じ認識です。みずほの歴史をたどると、日本最初の銀行である第一国立銀行を源流に持ち、みずほ証券の母体である旧角丸証券の源流も150年以上の歴史を持っています。

 そういう意味で、われわれの伝統はまさにお客さまの資産形成・資産運用に携わる業務にあります。どうしても「みずほはホールセールが強い」というイメージを持たれがちですが、リテールの源流は確かにあり、それをしっかり強くしていかなければいけない。

(法人向けの)ホールセール分野は、銀行の歴史もさることながら、みずほ証券自らが歩んできた資本市場でのリーダーシップも含めてわれわれの強みです。決算の数字を見ていただいても、ホールセールの経常利益はここ数年トップを走っており、野村證券さんとはビジネスモデルが違いますが、競り合いながらなんとか1位をキープしています。

 しかしリテールは、そういった伝統があるにもかかわらず、われわれは4位です。企業向けの強さやグローバルな強さを活用しながら、もっとリテールを強くしていけるはずです。ウェルスマネジメント領域は、同業他社にキャッチアップしなければいけない。

 具体的な数字を挙げると、2025年6月末時点の預かり資産は楽天証券(39.6兆円)と合算して98.2兆円(みずほ証券は58.6兆円)ですが、トップの野村證券(153.2兆円)と比べると3分の2程度です。収益面はさらに顕著で、25年度第1四半期で野村證券のウェルス・マネジメント部門が約1000億円の純営業収益を上げる中、われわれはその3分の1以下の330億円にとどまっています。

 この差の背景には、営業体制の規模の違いがあります。野村證券が開示ベースでリテールに約4700人の営業員を擁するのに対し、われわれは約2000人。1人当たりの生産性を単純計算しても、野村證券が年間8000万円台の純営業収益を上げるのに対し、われわれは6000万円台です。生産性で7割強、人数では半分以下という状況で、単純なマンパワーでこのギャップを埋めるのは容易ではありません。

――なぜ、かつて強かったリテールの力が弱まったとお考えですか。

 一つは顧客基盤自体が比較的脆弱だったこと。もう一つは、銀行・証券・信託の連携が、しっかりとした形に組み込まれてこなかったことです。

 これまでは店舗の在り方も含め、各地域のローカルな戦略に任せていたところがありました。そこをもう一度、マーケットセグメントをきちんと定義し、評価方法も変更しながら、最適なチャネルで最適なサービスを提供する体制を構築していく必要があります。

――人員規模で劣る中、どのようにして野村證券との差を詰めていくのでしょうか。

人員数は半分以下、収益力は3分の1。絶対王者・野村證券との圧倒的な差を、みずほはいかにして埋めるのか。浜本社長が明かす逆転の鍵は、野村が持たない「二つの武器」を最大限に活用する、みずほならではの総力戦にあった。次ページでそれを明らかにする。