日本経済を支えてきた自動車産業が、いま大きな転換点にある。元ネスレ日本CEOの高岡浩三氏は、EV大手の米テスラやBYDが評価されるのは、EVを“電動車”ではなく“AIロボット技術の延長”と捉えているからだと語る。その発想の差こそが、日米中の明暗を分けているという。特集『高岡浩三の「企業の通信簿」』の本動画では、日産「ゴーン追放」に見られるガバナンスの失敗や、トヨタの時代遅れな取締役会構成を例に、日本企業がいかに意思決定を遅らせてきたかを検証。技術力ではなく「経営の構造」が、いまの停滞を生んでいると警鐘を鳴らす。

テスラとBYDの評価は「車」ではない
日産「ゴーン追放」とトヨタの「時代遅れのガバナンス」

 米テスラや中国BYDの時価総額には、単なる「自動車メーカー」としての価値を超えた未来への期待が織り込まれている。彼らはEVをAI人型ロボットへとつながる“移動するプラットフォーム”と捉え、モビリティーの本質そのものを再定義しているのだ。自動車がAIで制御される「ソフトウエア・デファインド・ビークル」へ進化する時代に、EV化は単なる選択ではなく必然である。

 一方、日本企業ではガバナンスの弱さが変革の足かせとなっている。日産自動車はカルロス・ゴーン氏を追放した後、次のリーダーを育てられず迷走し、トヨタ自動車も創業家の影響が残る体制のまま、大胆な意思決定をためらっている。高岡浩三氏は、この構造的な遅れこそが、テスラやBYDとの決定的な差を生み出していると警鐘を鳴らす。

高岡浩三(たかおか・こうぞう)
1960年生まれ。83年神戸大学経営学部卒業後、ネスレ日本入社。30歳で同社史上最年少部長に昇格。「キットカット」受験キャンペーンを成功させ、受験生の定番のお守りになるよう普及させた。2010年よりネスレ日本代表取締役社長兼CEO。オフィス向けの「ネスカフェ アンバサダー」を立ち上げ、新たな市場を開拓。20年3月、同社を退社。サイバーエージェント社外取締役。主な著書に『企業の通信簿』『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)、『ネスレの稼ぐ仕組み』(KADOKAWA/中経出版)、『世界基準の働き方』(PHP研究所)など。