この本だったら
渥美さんもわかるかなと思った

黒柳 そうです。あとはあの頃、渥美さんは「アフリカ! アフリカ!」と言っていましたから。

山田 『ブワナ・トシの歌』というオールアフリカロケの映画の主演をしましたからね、渥美さんは。それ以来、休みがあるとよくアフリカに行っていました。

黒柳 はい。アフリカも出てくるし、この本だったら渥美さんもわかるかなと思ったんです、悪いけれど(笑)。きっと、ちゃんと読んでくれたのね。

山田 渥美さんのお嬢さんが徹子さんから貰った本を読んで、手紙を書いたことがあると聞きました。それがさっきの『星の王子さま』ですか?

黒柳 ああ、そうだ! とても素敵なお手紙をいただきました。

山田 渥美さんがあとになって、お嬢さんに読ませたんですね。ある程度大きくなってから。

黒柳 そんなことがありました。思い出しました。

山田 その手紙を読んで、徹子さんが「可愛い詩人さんのお手紙ね」と言ったそうですよ。渥美さんはうちに帰って、すごく嬉しそうにそう話したそうです。

黒柳 そうそう、お嬢さんまとめ方がすごく詩人みたいだったんです。

徹子さんから本をもらったことは
大きな出来事だった

山田 渥美さんはいつも本読んでる人だったそうですよ、息子さんに言わせれば。

黒柳 そういうお父さんだったの、ああそう。

山田 僕らの前では滅多に本の話はしませんでしたけどね。意外に読んでるんですよね。本を徹子さんに初めてもらったということが、彼にとっては大きな大事な出来事だったと思いますよ。活字っていうものを読んで。

黒柳 それからもね、渥美さんからしょっちゅう電話がかかってくるんです。「お嬢さんは今、何を読んでますか」って。

『男はつらいよ 拝啓車寅次郎様』の撮影中、大船撮影所にて第47作『男はつらいよ 拝啓車寅次郎様』の撮影中、大船撮影所にてⒸ松竹

山田 気になるんだな、徹子さんのような人がどんな本を読んでいるか。

黒柳 「今は別に何も」とか、「今は林芙美子(ふみこ)を読んでます」とか言うと、「ふーん」とだけ言うのね。もしかすると、私が言った本をそのあとで読んでいたのかもしれない。それは知りませんけど、なんだかんだ聞くの。私が、渥美さんの読んでいるものを尋ねると、流行りのものをどんどん読んでいるといってたなあ。

行きつけの書店で店員さんに
「近頃面白い本がありますか?」

山田 僕が知り合った頃はもう読書家だったんだけども、渥美さんが本を買う時にはね、虎ノ門の方に行きつけの書店があったんだそうです。

黒柳 へえ。

山田 そこにはベテランの女性の店員がいる。渥美さんのこともよく知っていてね。「どうですか、近頃面白い本がありますか?」と渥美さんが尋ねるとその店員が、「そうですね、小説だとこの辺かな。評論だとこれで、エッセイはこれが面白いですね」と勧めてくれる。その中から3、4冊を選んで「はい、ありがとう」と買って帰るんだと。

 専門家に選択を委ねるという、なんと賢明な本の選び方かと思いますよね。店員も渥美さんが来ると思うから、一生懸命勉強して考えていたんでしょうね。どの本を勧めようかと。

黒柳 そういうところは本当に向上心のある人だったんだと思います。

山田 向上心があって、しかもなんというか、賢い。下手なインテリのように我を張らない、つまらない書評なんか読んで選んだりしないんです。