渥美さんにとっての
『星の王子さま』の意味
山田 ちゃんとしたご飯が食べられて、勉強できる時間がちゃんとあって、という生活が自分にもありさえすれば……という気持ちを抱くようになっても、おかしくないですよね。
黒柳 そうですね。
撮影:下村一喜
山田 そして、だからこそきっと、徹子さんがどんなふうに育ったのか、正統な芸術に触れてきた人は、どんなことを考えるのかというのは、とても関心があったと思うんです。徹子さんが『星の王子さま』を勧めたと言っていたでしょう。
黒柳 はい。
山田 それは渥美さんの少年時代、青年時代のことを踏まえて考えてみると、やっぱりとても大きな出来事だったんだと思います。小学校ではろくに勉強もできなかった。戦後も上野のあたりでヤンチャなことばかりしていた。役者としても浅草のストリップ劇場あがりで、正統な芸術を学んできた立派な役者たちとは、自分は違っている――。
しかしある時、まさしく音楽一家に育った、正統な芸術をよく知る徹子さんから「読んでみたら」と、あの『星の王子さま』を手渡されるわけです。
黒柳 うん、うん。
徹子さんやいろんな人から
凄まじい努力で学んでいった
山田 そのうえ徹子さんは、ただインテリ育ちというだけでなく、渥美さんと深いところで、なぜだか通じ合える相手なんだから。
黒柳 そうか。
山田洋次・黒柳徹子『渥美清に逢いたい』(マガジンハウス、2024年9月5日発行)
山田 どれだけ驚いたかと思いますね。「こんな世界があったんだ」と。
黒柳 こうして山田監督のおっしゃることを聞くと、当時から渥美さんのことを、もっと分析じゃないけど、ちゃんと見ていたら良かったと思います。
山田 僕から見ればあの人の、あの賢い頭からすれば、どんな超一流の大学でも行けたし、もしかしてすごい文学者になったり、そういったことができた人だと思いますよ。あの天才ですからね。
黒柳 そうね。
山田 だけど渥美さんはその代わりに、凄まじい努力で、徹子さんやいろんな人から、学んでいったんだと思いますね。だからこそ俳優として大変な、大きな功績を残したんだけれども、渥美さんと喋っていると、俳優にならなかったとしても、無限の可能性を持っていた人なんだと、本当によくそう思いました。
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