Photo by Yoshihisa Wada
マンション価格の高騰に歯止めがかからない中、東京都千代田区は不動産協会に対して2025年7月、新築マンションの販売時に5年以内の転売と同一建物における同一名義での複数物件の取得を制限する異例の要請を行った。当初、協会側は慎重な姿勢を示したが、態度に変化の兆しが見える。また、11月に入り三井不動産レジデンシャルが一部の新築マンションで転売規制を導入する動きを見せた。特集『総予測2026』の本稿では、樋口高顕・千代田区長にマンション転売規制を要請した背景とその狙い、マンション価格高騰に対する“次なる秘策”を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 田中唯翔)
「大きな一石を投じることができた」
転売巡る対応で不動産業界にも変化
――東京都千代田区は2025年7月に、デベロッパーが加盟する不動産協会に対して、区内の投機目的でのマンション取引に関する要請を出しました。新築マンション販売時に5年以内の転売制限と、同一建物における同一名義での複数物件の取得を制限するというもの。“異例”の要請を行った背景と問題意識について教えてください。
千代田区内にあるマンションは以前から「億ション」といわれていましたが、ここ数年は3億円、5億円と価格の高騰が続いています。地域住民から話を伺うと、例えば神田で生まれ育った方が、いずれ子どもを連れて千代田区に帰りたいと思っても家の価格が高過ぎて買えない。賃貸マンションに住んでいる方が家賃の引き上げを求められたといった話を聞くことが24年ごろから増えてきました。
その要因には建築資材や人件費の高騰もありますが、投機目的と思われる取引が一因になっているとわれわれは推測しています。株価と東京23区の中古マンションの価格には連動性が見られ、一部の富裕層はマンションを投機目的の資産として扱っています。
投機目的のマンション購入が増えることで、住宅価格が過度に上昇し、さらには賃貸マンションの賃料引き上げにまで影響が及んでいると考えています。
問題は居住したい方々が住めなくなるだけではありません。短期転売で含み益を狙う人が増えることで、居住実態のない新築マンションが増加することも大いに懸念しています。
われわれ基礎的自治体としては、地域のつながりが大変重要です。空き住戸が増えることによってコミュニティーが希薄化していく恐れがありますし、また修繕積立金や管理費、共益費の徴収も難しくなってしまう可能性もあります。
――25年5月には、国土交通省が外国人による投機目的のマンション購入の実態調査を行うと報道されました。
国は登記簿上の情報を基に調査を行うようでしたので、千代田区としても近年に区内で竣工されたマンションの登記簿を取得して調査をすることにしました。と同時に各デベロッパーにヒアリング調査を行いました。
調査の結果、登記簿にある住所が当該分譲マンションの住所でない方が戸数全体の7割に達している事例などが見つかりました。
実際に住む人に区内のマンションを購入していただきたいので25年7月18日、不動産協会に転売規制の要請を出しました。対象は全てのマンションではなく、あくまでも市街地再開発事業などで開発・販売されるマンションで、原則5年間の転売禁止と、同一の建物における同一名義の個人、法人での複数物件の購入禁止を依頼しました。これにより投機目的のマンション購入を抑えていきたいと考えています。
――要請を出した後、不動産業界の対応に変化はありましたか。
7月に要請した当初、不動産協会は「要請に実効性がない」と述べ、実需と結び付いた価格の上昇であって、投機はあまり関係ないと話していたのですが、その後の記者会見では「投機は好ましいものではない」と明言し、抑制する仕組みを考えていきたいというふうに主張が変わりました。
そうした変化を起こした点では、非常に大きな一石を投じることができたと思っています。千代田区としてできる要請を行い、先手を打ったことで大きな波及効果が出てきたといえるでしょう。
25年7月に要請して以降、徐々に不動産協会の対応には変化の兆しがあったと語る樋口区長。次ページでは、マンション価格高騰に対して他にも行政が取り組もうとしている“秘策”を明かす。三井不動産レジデンシャルが導入した転売規制についても語った。







