総予測2026Photo by Kuninobu Akutsu

高市政権の「サナエノミクス」は、物価高対策と危機管理投資で成長力を高めつつ、日本銀行への圧力を通じて利上げを抑え込み、インフレと円安を長期化させかねない。一方、トランプ政権の減税とAI投資拡大は米国株を支える。円安は長期化し、日経平均株価6万円乗せが視野に入る。特集『総予測2026』の本稿、マーケット対談後編では、佐々木融ふくおかフィナンシャルグループチーフ・ストラテジストと西原里江J.P.モルガン証券チーフ株式ストラテジストに、高市政権やトランプ政権の経済政策の市場への影響と中長期の為替相場、株価の行方を検証してもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

サナエノミクスは株価にプラスも
崩れる「円安=株高」の構図

――高市政権の経済政策のマーケットへの影響については?

西原氏 高市政権の「サナエノミクス」には二つの注力ポイントがあるとみています。一つは「物価高対策」。中低所得者の消費をサポートし、家計の負担を軽減する政策です。もう一つは「危機管理投資」。防衛・エネルギー・サプライチェーンといった国家安全保障上重要な分野への投資を促し、経済の強靱化を図る政策です。株式市場が最も意識する目先3~6カ月程度の時間軸で見ると、これらはプラス要因として意識されやすいでしょう。

 前者については、コロナ後の経済正常化の中で、企業収益や株価は回復しても、家計の回復がなかなか追い付いてこなかったという問題がありました。中低所得者向けの直接支援や、教育無償化、年収の壁対策といった形でサポートが入ることは、個人消費、内需株にとってプラス要因です。

 後者の危機管理投資も、設備投資の底上げを通じて中長期的な成長力を高める方向ですので、株価にプラスに働きます。

 ただ、マクロ政策で、利上げをゆっくりにとどめ財政をふかし続ければ、インフレは高止まりし、実質賃金がさらに下がるリスクがあります。また、円安を通じて輸入物価の上昇を招きます。

 かつては「円安=日経平均高」という分かりやすい構図がありましたが、今はある一定以上の円安になると、家計の実質所得を圧迫し、消費にマイナスに働く面が大きい。

 2024~25年は、おおむね1ドル=157円前後がその分水嶺でしたが、26年は年末165円前後が一つの目安になってくると思います。日本銀行には利上げのペースやターミナルレートに関するコミュニケーションを駆使して、為替安定にも目配りをする必要が出てきていると感じています。

佐々木氏 高市政権のスタンスは日銀へのプレッシャーを通じて利上げを抑え込みつつ、一方で財政支出を拡大していく、というものです。

 そうなると長期金利は当然上がっていきます。その局面で、どこかで再び「イールドカーブ・コントロール(YCC)を再導入する」といった議論が出てくるのかどうか。例えば10年金利が2%に近づくような局面で、YCCの再導入が意識され始めると、円売りが一段と加速する可能性があります。

 逆に、長期金利が上昇したとき、YCCのような市場介入的な枠組みを再び使わない、というのであれば、過度の円安にはならないかもしれません。

 財政拡張そのものが円安要因だとはあまり思っていません。例えば「財政赤字が25兆円だから駄目で、20兆円ならいい」というような単純な話ではないと思います。

 むしろ、財政拡張に対するスタンス、つまり長期金利が上がったときにそれを受け入れるのか、あるいは日銀に国債を買わせて抑え込もうとするのか。その違いが円相場に大きく影響します。日銀が国債市場と金利をコントロールしてしまうと、そのゆがみが為替に一気にしわ寄せされる。今の円安は、その典型例だと思います。

サナエノミクスとトランプ政権の経済政策で為替レートや株価は中期的にどう動くのか。次ページで佐々木氏と西原氏は日本の個人金融資産の動きも踏まえつつ分析する。