小説「昭和の女帝」のリアル版 辻トシ子の真実#14K・スガハラの海運会社が運航した自動車運搬船「サンベルト・ディクシー」。トヨタ車を北米に運んだ 写真提供:Great American Lines

女性フィクサー、辻トシ子は1970年代、日米オレンジ問題の裏で暗躍していた。宏池会と親しい企業に利益をもたらす、オレンジの輸入枠拡大を実現するなどして、宏池会会長だった大平正芳の首相就任を強力に後押ししたのだ。『昭和の女帝 小説・フィクサーたちの群像』のモデルの女性の謎に迫る特集『小説「昭和の女帝」のリアル版 辻トシ子の真実』の#14では、オレンジ自由化と表裏一体の事業として、日系二世の米国人実業家と彼女が進めていたトヨタ車の輸出プロジェクトの全貌を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)

大洋漁業(現マルハニチロ)と米国人実業家による
車とオレンジの日米貿易を辻トシ子が強力に支援

 保守本流の派閥、宏池会の陰の実力者として、1978年の大平内閣誕生を後押しした辻トシ子の最大の支援者は、実は米国人だった。日系二世のK・スガハラという人物で、戦時中は、CIA(米中央情報局)の前身である情報機関OSS (米戦略情報局)の工作員として日本軍の戦意を喪失させるための心理戦に従事。戦後は、実業家として成り上がった。

 スガハラは、1961年に辻トシ子が三十六会というコンサルティング会社を設立した当初からの彼女のスポンサーだった。スガハラとその子孫たちは、彼女が2020年に亡くなるまで、顧問料を支払い続けた。

 長年にわたり顧問料を払うのには当然、理由があった。その一つが45年にわたり、トヨタ車を北米に輸出し続けた“ドル箱”プロジェクトである。実は、このプロジェクトは辻トシ子とスガハラが取り組んだ米国産オレンジの輸入拡大とコインの裏表のような関係にあった。

 スガハラの生い立ちや米情報機関との関係、辻トシ子との政治工作の内容については本特集の#12『大平内閣誕生に向けた「昭和の女帝」辻トシ子による秘密工作を解明!日米オレンジ問題で福田派の“利権”を切り崩し、宏池会に利益誘導する剛腕』で詳述した。ここでは、スガハラの実業家としての側面に触れておきたい。

 スガハラがビジネスで成功するきっかけになったのが、大洋漁業(現マルハニチロ)との取引だ。マルハニチロは現在、大手食品メーカーとして知られるが、その前身の大洋漁業は太平洋戦争中、西大洋漁業統制という社名の国家色の強い漁業と水産加工の会社だった。戦後、大洋漁業に社名を変更した同社は1946年8月に南氷洋での捕鯨を再開する。食料不足が深刻だった当時、クジラ肉への国民の期待は大きかった。

 ところが、捕鯨船を動かすための重油が十分に調達できなかった。そのとき大洋漁業が頼ったのが、吉田内閣で建設相などを務めた益谷秀次の秘書で、GHQとつながりがあった辻トシ子だった。大洋漁業は彼女から、米国のオイルメジャー、モービル石油(現エクソンモービル)とスガハラを紹介され、同社から重油を調達するようになった。

 日本を代表する企業だった大洋漁業が、スガハラ個人と重油を取引するのは差し障りがあったため、スガハラが1957年に設立したのがフェアフィールド・マックスウエル(FM)社だった。

 前出の記事にある通り、FM社は多数のタンカーを所有し、石油を日本に運ぶビジネスで巨額の利益を上げた。ところが、1973年に始まった第1次オイルショックで経営が急激に悪化する。

 追い詰められたスガハラが起死回生の一手として考え出したのが、日米貿易摩擦をビジネスチャンスに変えることだった。次ページでは、スガハラと辻トシ子が実現した画期的なアイデアを明らかにする。両者が120万台ものトヨタ車を北米に運搬できたのはなぜなのか。


 

『昭和の女帝』書影

昭和の女帝
小説・フィクサーたちの群像

千本木啓文著

<内容紹介>
自民党の“裏面史”を初めて明かす!歴代政権の裏で絶大な影響力を誇った女性フィクサー。ホステスから政治家秘書に転じ、米CIAと通じて財務省や経産省を操った。日本自由党(自民党の前身)の結党資金を提供した「政界の黒幕」の娘を名乗ったが、その出自には秘密があった。政敵・庶民宰相との壮絶な権力闘争の行方は?

「昭和の女帝」と米情報機関の元工作員によるトヨタ車120万台の輸出戦略、日米貿易摩擦をカネに変える600億円プロジェクトの全貌「昭和の女帝」と米情報機関の元工作員によるトヨタ車120万台の輸出戦略、日米貿易摩擦をカネに変える600億円プロジェクトの全貌「昭和の女帝」と米情報機関の元工作員によるトヨタ車120万台の輸出戦略、日米貿易摩擦をカネに変える600億円プロジェクトの全貌「昭和の女帝」と米情報機関の元工作員によるトヨタ車120万台の輸出戦略、日米貿易摩擦をカネに変える600億円プロジェクトの全貌
『昭和の女帝』ドキュメンタリー動画