BCG泥沼訴訟 丸投げリストラの全内幕Photo:PIXTA

アパレル大手TSIホールディングスは、数十億円を投じてボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に収益構造改革の助言を依頼し、BCGが提示した「10億円削減」のリストラ手順書に沿って大規模なリストラを進めてきた。だがそのスキームは、TSI法務部が法的リスクを正面から指摘するほど多くの問題をはらんでいた。長期連載『コンサル大解剖』内の特集『BCG泥沼訴訟 丸投げリストラの全内幕』第4回の本稿では、TSIで用いられていたMBO(目標管理制度)とは別にBCGがリストラ専用に作成した “ABCD選別リスト”の全貌と、その問題点を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

中期経営計画で100億円削減目標
本社リストラのみで10億円捻出へ

 東京証券取引所プライム上場企業であるアパレル大手TSIホールディングスは、株式市場から厳しい評価を受けてきた。東証が2023年3月、「PBR1倍割れ企業」に資本効率の改善を促してから1年がたっても、TSIのPBR(株価純資産倍率)は0.6倍程度だった。

 そこでTSIが頼ったのが、世界屈指の戦略コンサルティングファーム、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)だ。株価指標低迷の要因分析をBCGに委ねた結果、低PBRの最大要因は、同業他社に比べ営業利益率が長年見劣りしてきたこと、つまり本業で稼ぐ力の弱さだと結論付けられた。

 そこで、TSIはBCGに数十億円規模のコンサル費用を投じ、大規模な収益構造改革に踏み切った。その青写真が公に示されたのが、24年4月に公表されたTSIの中期経営計画だ。

 中計では、収益構造改革をてこに「27年2月期に約100億円の収益改善をやり遂げる」と掲げ、「販管コスト等の効率化」で約25億円の改善を目標とした。ここで主要施策とされたのが、BCGが提案しTSIが実行した本社人員の大規模リストラである。

 BCGが作成した内部資料によれば、TSIには25年2月期に2億円、26年2月期に10億円、27年2月期に10億円の人件費削減効果を生み出す必要があるとされた。このうち、26年2月期に10億円を捻出するため、本社人員の2割削減を前提とした計画がBCGから示された。

 そこで考案されたのが、部門長に部下をA~Dの4段階で分類させる“ABCD選別リスト”だ。Aは「エース人材」、Bは「業務遂行に必要な人材」としてリストラの対象外とする一方、Cは「業務遂行に不要な人材」、Dは「早期退職の筆頭候補」とした。C・Dとされた社員に個別面談を行い、退職と配置転換を進める。こうした流れが、10億円創出に向けたステップとして盛り込まれていた。

 次ページでは、BCGがTSIに提案した「10億円創出リストラ」の設計図を公開する。

 A~D評価ごとの人数や、会社に不要とされた社員に突き付けられた具体的な選択肢、さらに各ケースについてBCGが試算した人件費削減額まで明らかにする。そこから、TSIで用いられていたMBO(目標管理制度)ではなく、BCG提案の“ABCD選別リスト”を基準にリストラを進めざるを得なかった根本的な事情が見えてくる。