【自動車】
マーケティング力とスピード感が鍵に

 自動車業界は、一方向的なEVシフトから、ハイブリッド(HV)やプラグインハイブリッド(PHEV)など複合的な電動化戦略が広がっている。欧州メーカーを含め、エンジン開発を再開する動きも見られ、EVとHVの最適バランスを模索する段階に入ったといえる。

 その背景には、EV補助金縮小や充電インフラの整備課題、安全性への再評価などがあるが、これらはむしろ技術革新を促す新たな課題意識として業界を前進させている。リチウムイオン電池のリスクを契機に、全固体電池など次世代電池への開発競争も加速中だ。

変わりゆく価値観の中
競争軸はどうなるのか?

 消費者の価値観は変化しており、性能よりもデザイン性や内装、デジタル体験を重視する傾向が強まっている。車はスマートフォンのようにネットワークにつながる「コネクテッドカー」となり、ソフトウエアによって機能が決まるSDV(Software Defined Vehicle=ソフトウエアで定義される車)の時代が進んでいる。メーカー各社は自動運転・AI連携・通信機能を組み合わせ、新しいモビリティー体験の創出に取り組んでいる。

 グローバル市場では、中国のメーカーが急成長し、アジア・欧州・南米へと展開。垂直統合と迅速な意思決定で開発スピードとコスト競争力を両立しており、世界市場の活性化に寄与している。日本メーカーも品質・信頼性・安全性を強みに、インフラ整備を見据えた長期戦略を進めている。

 今後の競争軸は、電動化やソフトウエアだけでなく、柔軟な人材活用に加え、「地域別マーケティング力」「スピード経営」へと広がっていく。日本勢にとっても、技術力と信頼性に加え、意思決定の速さと国際的な感度を高めることが、競争優位を維持する鍵となる。

(富士経済 モビリティ・ソリューション事業部 饗場知氏への取材を基に構成)