これまで行動ファイナンスの切り口から見てきたように、私たちはその習性故に投資においてなかなか適切な行動を取れない傾向にあります。当然、皆さんの関心は、「このような人間の習性によるバイアスを回避しつつ、適切に退職後資産を形成するにはどのように投資すればよいのか」という点にあると思います。そこで、これから数回にわたりその対応策についてお話しします。
今も昔も人間は変わらない
対応策について話す前に、ここまで説明した行動ファイナンスからの示唆を以下にまとめました。
(1)自分では合理的な選択ができると思いがちだが、実際には適切にリスクが取れない
(2)選択は良いこと、そして選択肢は多いほど良いと思いがちだが、実際にはむしろ選択肢の多さが人間の思考を麻痺させ、意思決定を鈍らせてしまう
(3)多くの情報を持っているからといって、適切な判断が下せるとは限らない
(4)自分は他人より優れた運用ができると自信のある人もいるかもしれないが、市場の動きを予測するのは難しく、結果としてそういう人ほどうまく行っていない
極端な言い方をすると、自ら進んで考えよう、判断しようと思えば思うほど、人間は合理的な判断ができないという大きな問題を抱えることになります。ビジネスの最前線で働くオヤジ世代の皆さんは経営や現場の責任者として日々難しい判断を迫られていると思いますが、考えれば考えるほど人間固有のバイアスに陥ってしまった経験があるのではないでしょうか。例えば、長期的に大きな利益が得られる可能性があるプロジェクトがあるのに、単年度の利益を重視するあまり、即効性のある低収益のプロジェクトを実行してしまった経験はないでしょうか。また、膨大なコストをかけたプロジェクトについて、その将来性を考えると中止が妥当な判断であるにもかかわらず、過去に投じたコストの大きさを考えて継続してしまうというのもよくある話だと思います。