永守ニデック 最終審判#8Photo by Shintaro Iguchi

不適切会計疑惑に揺れるニデックは、減損損失の計上を恣意的に先送りし、利益を多く見せていたのではないかと指摘されている。監査法人が独立性を保てていたのかどうかも焦点となっている。特集『永守ニデック 最終審判』の#8では、会計と企業ガバナンスを専門とする八田進二・青山学院大名誉教授にニデックの問題点を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)

過大配当でも誰も責任取らず…
ガバナンスの改善に向け、取締役の総入れ替えを

――第三者委員会の報告書が出る前に永守重信氏がグローバルグループ代表を辞任しました。

 フジ・メディア・ホールディングスの日枝久氏が、一連の不祥事について自分の言葉で語らないまま取締役相談役を退任したのと同じです。永守氏は部下に、「敵前逃亡はけしからん」と厳しく指導してきましたが、その敵前逃亡を、自分自身がやってしまったということだと思います。

 ニデックの再建に、永守氏の退任が欠かせないのは明らかでしたが、そのタイミングが重要でした。本人の意思で辞めたとしていますが、不適切会計疑惑の真相によっては、「解任」相当の判断がなされたかもしれません。第三者委員会が報告書を出したとき、永守氏がしかるべき立場で説明しないとなれば、責任逃れの汚名を着せられる恐れがあります。

 ニデックでは近年、会計面での不祥事が続いています。私自身、最もおかしいと思っているのが、2023年に発覚した分配可能限度額を超過した違法配当です。会社法には配当制限規定がありますが、それを超過して中間配当を行ってしまいました。外部調査委員会は「財務部または経理部の担当役職員における知識不足及び認識不足等が原因」としつつ、「取締役がその職務を行うについて注意を怠ったとまではいえない」と結論付けています。

 この時期に、ニデックでは経理と財務の担当者の退職が多かったとのこと。決算書を作る経理と配当を扱う財務は、本来は連携していなければならないにもかかわらず、決算書に対する理解や情報共有が極めて乏しかったと言わざるを得ません。まさに、財務報告に係る内部統制に重大な不備が認められ、適切に会計処理をするのが困難な状況だったのではないかとみています。

――ニデックは、当時の監査担当だったPwC京都監査法人(現PwCジャパン監査法人)にも責任があると主張しました。

 ニデックは過大配当について発表した際、「監査法人も分配可能額の超過を、見落としにより指摘できていなかった」と言及しました。PwC京都監査法人も「ニデックの認識に事実の相違はありません」とコメントを出しました。中間配当は法律上、取締役会決議で行うことができます。従って、取締役会の責任が問われるべきなのです。法律上問題がある場合には、後日、会社に対して取締役は連帯して支払い義務を負うことになっているのです。

 ところが、外部調査委員会は「取締役には違反の認識はなく、刑事責任は認められない。取締役は職務を行うについて注意を怠らなかったと評価できる」と総括しているのです。さらに、ニデックは株主に対しても返還請求はしませんでした。

 永守氏本人と、永守氏が代表を務める資産管理会社はニデックの大株主ですから、(同社と永守氏との間には、配当を巡って)明らかな利益相反の構図があります。にもかかわらず、誰も責任を取らなかったのです。到底許される話ではありません。

――不適切会計疑惑の調査では、過去に買収した会社ののれんの償却も問題になりそうでしょうか。

 M&Aで急成長してきた企業の弱点が露呈しました。買収を繰り返してきたニデックは、大きなのれん勘定を抱えています。会計処理には主観的な要素が入り込む余地があるものの、利益を出すために調整できる項目は実はそれほど多くありません。

 例えば、売上高を伸ばすための架空の売り上げ計上があります。また、費用を減らすために計上を先送りすることも典型的です。本来計上すべき引当金を積まない、あるいは資産の減損を後ろ倒しにするといったことでも利益を調整できます。減価償却もそうですが、期末に振替伝票を一枚切るだけで利益の水増しが可能となります。そうした操作は、比較的容易に行えてしまいます。

――監査法人の責任をどう考えますか。

 ニデックの監査を担っているPwC京都監査法人は、現時点でほとんど説明をしていません。財務諸表の全てにおいて問題ないとする「無限定適正意見」以外の監査意見が出た場合には、監査人からの説明・情報提供が一層重要であるとの認識の下、より丁寧な説明を行うべきことを求める金融庁の報告書(「会計監査に関する情報提供の充実について」(2019年1月22日)も公表されているのです。

 同じ監査法人がニデックを長年担当してきたわけですから、これまでどのような監査を行ってきたのか、なぜ問題を発見できなかったのかが問われます。少なくとも、監査の信頼性を確保するためにも、現時点で分かっている範囲だけでも説明するべきです。解明には時間がかかるでしょうが、場合によっては、監査法人の責任も問われる事態になってくるのではないかと思います。

次ページでは、決算に恣意性が生まれる余地がなぜあるのか、監査法人は不適切会計疑惑にどう向き合うべきかについて、八田氏に語ってもらった。