地域新聞社本社が入る千葉県八千代市のオフィスビル Photo by Shingo Matsuda
2024年初頭、千葉・茨城でフリーペーパー「ちいき新聞」を配布する地域新聞社は、東証グロース市場で時価総額最下位に沈んでいた。紙媒体、しかも地域限定。投資家の目に、このビジネスモデルは将来性を欠くものと映っていた。24年2月に社長に就任した細谷佳津年氏は、経営戦略を大きく転換し上場維持基準の時価総額40億円達成を目指す。その期限は、26年8月。就任から期限まで約1000日のカウントダウンが始まった。一方、水面下では同社の経営権奪取を狙い、複数の投資家がひそかに株式を買い進めていた――。紙の地域メディアは経営を立て直し、上場を守り抜けるのか。長期連載『メディア興亡』内の特集『地域新聞社 上場廃止危機に挑む1000日』では複数回に渡り、地域新聞社の1000日に密着する。初回の本稿では、経営権を巡って激しい攻防戦が繰り広げられた株主総会の舞台裏を明らかにする。(フリーライター 松田晋吾)
潜行する「群狼」の包囲網
突如現れた謎の筆頭株主
「この会社、怪しいつながりがあるかもしれない」
2025年7月、千葉県八千代市の地域新聞社本社。細谷佳津年社長ら幹部はそのころ、地域新聞社株の15%超を取得し筆頭株主となったMTM Capital(以下MTM)の関係者の身辺を調査していた。前職のエー・ディー・ワークスでCFO(最高財務責任者)を務めた経験から、細谷社長は異変の兆しを鋭く察知した。
ウルフパック――複数の投資家が連携して水面下で株を買い集め、経営権を奪う投資手法で「群狼戦術」とも呼ばれる。その“狼の群れ”が、そこまで迫っているのではないか。決算期末の同年8月末の株主名簿には数パーセント程度を保有する新たな顔ぶれが散見され、警戒心は一層高まった。
地域新聞社がウルフパックと確信したのは、10月下旬に合同会社YN企画が公表した大量保有報告書だ。YN企画は経営コンサルティングなどを手掛け、代表は櫻井重彰氏。MTMから株式を引き継ぎ保有比率は18.67%に達していた。
YN企画、櫻井氏、そして名簿に記載のあるその他の株主の関係を調べると、地域新聞幹部らに衝撃が広がった。「偶然ではない。複数の株主が裏でつながっている」。複数株主の持ち分を合算すれば相当な比率に達する可能性がある。
その時期を境に、千葉県を中心にフリーペーパーを届ける地域密着型の会社が、経営権を奪われかねない状況に直面する。狼の正体は何か。そして緊迫の株主総会の行方は――。次ページで詳報する。







