Photo by Reiji Murai
日米関税交渉の最前線に立ち、「対米5500億ドル投資」という前例のない枠組みをまとめ上げた張本人である財務省の三村淳財務官が、90分にわたり交渉の舞台裏と、激変する経済安全保障環境を見据えた国家戦略の核心を明かした。産業界で根強い「米国有利」との批判に、財務官はいかに反論するのか。最大の焦点だった自動車関税を巡る攻防、EUや韓国との決定的な違い、そして財務省を“経済安保トップ官庁”へ押し上げるという覚悟とは。特集『AI産業戦争 米中覇権に呑まれる日本』の#8では、当事者だからこそ語れる本音と戦略が、次々と飛び出した。(聞き手 メディア局論説委員浅島亮子、ダイヤモンド編集部村井令二)
財務省には「情報の宝の山」
安全保障政策統括室が司令塔
――財務省内に経済安全保障を担当する「安全保障政策統括室」を新設し、三村財務官自身がその組織のトップを務めています。組織立ち上げの狙いは?
財務省は日本政府の中で、最重要の経済安全保障官庁にならなければならないと考えています。経済安保における諸施策の出発点は、国境を越える「お金の流れ」と「物の流れ」を正確に把握することです。財務省は、税関と外為法を所管しています。税関のネットワークを通じて、日本からの輸出、日本に入ってくる輸入について、どの国とどの品目がどのように動いているのかを、リアルタイムかつ網羅的に把握できる立場にあります。また、外為法を所管することで、膨大な届出や報告を通じ、国境を越える資金の動きに関するタイムリーな情報も集まります。これは「宝の山」と明確に位置付けるものです。
しかし、率直に言うと、私が財務官に就任した時点で、それらの情報を能動的・主体的に分析し、経済安保上のリスクを抽出して政策に繋げる体制は十分に機能していませんでした。
外為法では、特定の国からの投資の増減や、日本企業の海外展開の動きを把握できていたとは言い難い。関税分野も、外為法に比べれば相対的に進んでいるものの輸出入の変化を機動的に分析できる段階には至っておらず、いずれも「よちよち歩き」の状況でした。
財務省として、お金と物の流れを常時分析し、その成果を国内の関係省庁やインテリジェンス機関、さらには同志国といえる諸外国とも共有できる体制を構築する必要があります。例えば、他国から特定の投資家の動向について問われた際に、即座に分析結果を示せるようになれば、財務省は他省庁では代替し得ません、極めて重要な情報源・分析基盤です。
その司令塔の役割を果たすのが「安全保障政策統括室」で、数年がかりでも腰を据えて組織として人的リソースを含めた専門的なチーム整備が不可欠なのです。
――財務省や財務局ネットワークを含めて、「経済安保」体制はどのような陣容なのでしょうか。外為法は経済産業省も所管していますが、役割はバッティングしないのでしょうか。
安全保障政策統括室は、私が室長を務め、室長代理には関税局長と(外為法を担当する)国際局長が就いています。同室は、ハイレベルな経済安全保障政策を大所高所から議論し方向性を示す統括機能を担っています。
経済安全保障分野の司令塔に――。次ページでは、財務省を“経済安保トップ官庁”に押し上げる覚悟と、そのために進める具体的な体制整備や陣容について、財務官自らが踏み込んで語った。さらに、産業界から“米国有利”との批判も根強い「対米5500億ドル投資」の真の狙い、トランプ関税を巡る日米交渉の舞台裏、そして交渉の最重要ミッションだった自動車関税をめぐる攻防、敢えて口にした自動車業界への苦言と本音とは。 米国とのタフな国際交渉の最前線に立ち続けてきた財務官が、これまで語られることのなかった内実を明かす。







