AI産業戦争 米中覇権に呑まれる日本#5Photo:Chesky_W/gettyimages

日本の自動車・自動車部品メーカーにとって、中国事業は長らく成長エンジンだった。世界最大の市場を前に、各社は競うように工場を建設し、合弁会社を設立し、巨額の資本を投じてきた。だが、その経営判断がいま、企業の首を静かに絞め始めている。中国企業の急速な台頭とEV(電気自動車)・ソフトウエア分野での技術進化、さらに地政学リスクの高まりにより競争環境は一変し、日本企業は事業継続そのものを揺るがされる局面に立っている。特集『AI産業戦争  米中覇権に呑まれる日本』の#5では、自動車・自動車部品メーカー80社を対象に、中国向け出資・資本金という切り口から「中国依存」の実態を徹底分析した。そこに浮かび上がったのは、進むも地獄、退くも地獄という、日本企業の逃げ場なき厳しい現実だった。(ダイヤモンド社メディア局 論説委員浅島亮子)

独自ランキングが示す
中国事業からの撤退リスク

 いまや、中国で開催されるモーターショーは、単なる新車展示の場ではない。ソフトウエア、自動運転、コネクテッドといった次世代技術を競う“テクノロジーの最前線”となり、中国勢が主役に躍り出ている。中国の自動車販売台数は2025年に3440万台で過去最高を更新し、17年連続で世界一の座を維持した。

 市場が拡大する一方で、日本勢の相対的な競争力低下は鮮明だ。EV(電気自動車)やソフトウエア分野では、コスト競争力や技術水準の面で、中国勢が日本勢を上回る場面も珍しくなくなった。中国のEV大手のBYDが25年のEV販売で世界首位に立ったのは、その象徴だ。

 こうした環境変化の中で、日本の自動車・自動車部品メーカーにとって、中国事業はもはや成長エンジンではなくなりつつある。販売台数は頭打ちとなり、価格競争は激化。EVシフトやソフトウエアの主導権は中国勢に握られ、日系メーカーの競争環境は厳しくなっている。かつての稼ぎ頭だった中国事業は、いまや撤退リスクを抱える存在へと変容してしまった。

 そこでダイヤモンド編集部は、東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストの協力を得て、自動車・自動車部品メーカーの上場80社を対象に、独自の「中国依存ランキング」を作成した。最大の特徴は、売上高や利益といったフローの指標ではなく、「中国向け出資・資本金」を中国依存を測る物差しとしたことだ。

 日系メーカーは、たとえ中国で稼げなくなったとしても、資本は簡単に足抜けすることはできない。撤退の難しさを数字で可視化することが、今回のランキングの狙いだ。

 中国市場では三つのリスクが同時に高まっている。第一に、EV分野で中国が主導権を握り、日系メーカーが利益を確保しにくくなっている点だ。「稼げないが、辞めることも難しい」というねじれが、中国事業を経営の足かせにしている。

 二つ目は、米中対立の激化に伴う地政学リスクだ。自動運転に関わるデータ規制やレアアースの輸出規制など、中国ビジネスはもはや経営努力だけでは制御できない国家リスクにさらされている。

 そして三つ目は、最も厄介な構造問題だ。完成車メーカーは長らく合弁方式での進出を義務付けられ、工場や研究開発拠点への投資は中国域内に固定されてきた。いったん投じた資本は、容易に回収することができない。

 つまり、中国ビジネスを畳もうとしても、経営判断だけでは撤退できない。ここに、「進むも地獄、退くも地獄」といわれるゆえんがある。

 次ページでは、こうした構造を踏まえ、自動車・自動車部品80社の「中国依存」ワーストランキング80社を公開する。検証するのは二つ。中国向け「出資・資本金」の総額ベースでは、撤退すれば一撃で巨額損失が発生する企業が浮かび上がる。一方で、中国総資産比率ベースでは、経営のハンドルそのものが中国に握られかねない企業があらわになる。中国から“逃げるのが難しい企業”とはどこなのかーー。厳しい経営判断を迫られる企業群が明らかになる。