総予測2026Photo by Tohru Sasaki

日米の関税合意に盛り込まれた5500億ドル(約80兆円)の対米投資の詳細が明らかになってきた。第1号案件は電力やLNG(液化天然ガス)などエネルギー分野が対象になるとみられるが、米国側は「利益の90%を米国が受け取る」としている。果たして日本の国益にかなうのか。特集『総予測2026』の本稿では、「対米80兆円投資」に出資や融資、融資保証などで主体的に関わる国際協力銀行(JBIC)の前田匡史会長を直撃し、実現の可能性や日本企業の関与、具体的に想定されているプロジェクトなどについて聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 金山隆一)

「対米80兆円投資」の中身とは
小型原子炉が早期に進む可能性

――日米の関税合意で対米投資5500億ドル(約80兆円)が盛り込まれました。国際協力銀行(JBIC)の年間融資実行額の80年分にも相当します。実現できるのでしょうか。

 現実的にはトランプ米大統領の任期中にはやり切れないでしょう。恐らく2026年の中間選挙の前にトランプ政権が推進したといえる案件を出してくるでしょう。金額は分かりませんが、すぐ進みそうなものは電力開発。テネシー・バレー・オーソリティー(TVA、テネシー川流域開発公社)が5.9ギガワット(590万キロワット)の原子力発電所をSMR(小型モジュール炉)で検討していると発表しています。

――このSMRに日本企業は関与するのでしょうか。

 TVAは米ニュースケール・パワーが設計するSMRを72ユニット導入する計画を検討しています。ニュースケールには日本勢ではJBIC、IHI、日揮、中部電力が出資し、韓国勢も斗山エナビリティ(旧斗山重工業)、サムスン、GSエナジーが出資しています。最大の株主は米エンジニアリング会社のフルアー。同社はデザイン(設計)だけなので原子力プラントの製造はOEM(製造委託)となります。

――数兆円規模のプロジェクトになるのではないですか。

次ページでは、前田会長がSMRの他に具体的に進む可能性があるプロジェクトを解説する。また、JBICが10月に創設した「日本戦略投資ファシリティ」という先進国向けの新たな金融支援制度の狙いなどについても明らかにしてもらう。