エネルギー動乱長崎県五島市沖で日本初の商用運転を開始した浮体式洋上風力発電所「五島洋上ウィンドファーム」(写真提供:戸田建設)

洋上風力発電ビジネスは三菱商事の撤退や資材価格の高騰で急ブレーキがかかっているが、ゼネコンやエンジニアリング会社は投資を続けている。準大手ゼネコンの戸田建設は長崎・五島で日本初の商業用浮体式洋上風力を稼働させたほか、JFEエンジニアリングは海底に据え付ける着床式に加えて、海に浮かべる浮体式基礎にも本格参入する方針だ。両社に共通するのは「価格競争の前に、まず産業をつくる」という発想。逆風の中でなぜアクセルを踏むのか。連載『エネルギー動乱』の本稿では、両社の狙いを探った。(エネルギージャーナリスト 宗 敦司、ダイヤモンド編集部 金山隆一)

失速の陰で始まった浮体式
戸田建設が挑み続けた18年

 日本の洋上風力はもうからない――。業界関係者の間でそんな言葉が定着して久しい。資材価格の高騰や金利上昇、そして三菱商事の大型案件からの撤退は、日本の洋上風力に大きな影を落とした。入札制度の価格偏重も重なり、事業環境は一段と厳しさを増している。

 だが、その陰で着実に前進している事業もある。2026年1月、長崎県五島市沖で日本初の本格的な商業用浮体式洋上風力発電所「五島洋上ウィンドファーム」が運転を開始した。手掛けたのは準大手ゼネコンの戸田建設を中核とするコンソーシアムだ。

 戸田建設が浮体式に取り組み始めたのは07年にさかのぼる。大学の実験水槽レベルからスタートし、長崎・佐世保沖での小型実証、環境省の実証事業を経て、五島沖に設置された2000キロワット実証機「はえんかぜ」は10年以上にわたり発電を続けてきた。台風の直撃や落雷といった日本特有の厳しい自然条件にさらされながらも、致命的な故障に至らなかった実績は、浮体式の信頼性を裏付ける貴重な実機データとなっている。

 今回の商業機は2100キロワット機8基、計1万6800キロワットと規模こそ大きくないが、技術的意義は大きい。戸田建設が採用したのはコンクリートを多用した「ハイブリッドスパー型」浮体だ。円筒形の浮体を海中深く沈めて安定させる構造で、部材点数が比較的少ない。同社は将来の大型化時には鋼製スパーよりコスト競争力を発揮できる可能性があるとみている。

 この方式の特徴は、製造に必ずしも造船所レベルの大規模設備を必要としない点にもある。実際、五島では地元の生コン会社や建設会社が製造工程に関わった。浮体式は「海に浮かぶ発電所」であると同時に、「港で造る巨大な土木構造物」でもある。戸田建設は、造船業だけでなく地域の建設業やコンクリート産業まで巻き込める点に、浮体式の産業的ポテンシャルを見いだしている。それは発電所をただ建てるというより、新たな産業ネットワーク構築という意味合いが強い。

 浮体式に可能性を見いだしているのは戸田建設だけではなく、エンジニアリング大手のJFEエンジニアリングも着床式のモノパイルという基礎杭で400億円の設備投資をしてきたのに加え、浮体式への取り組みも開始した。実は両社とも大型構造物の製造や設置、工事そのものに商機を見いだしているが、両社が狙っているのは、それらの受注だけではない。次ページで、その中身を探っていく。