
昨年、サントリーホールディングスで10年ぶりに創業家出身者がトップに就任する“大政奉還”があった。創業120年超の歴史を誇る日本屈指の同族企業、サントリーの足跡をダイヤモンドの厳選記事を基にひもといていく。連載『ダイヤモンドで読み解く企業興亡史【サントリー編】』の本稿では、「週刊ダイヤモンド」1986年5月24日号に掲載されたサントリーの佐治敬三社長と東京急行電鉄の五島昇社長の特別対談「今こそ世界のリーダーシップを握る好機」を紹介する。佐治氏は大阪商工会議所会頭、五島氏は日本商工会議所会頭との肩書で登場。当時、85年のプラザ合意を背景に急速な円高が進み、輸出型産業の先行きが危惧されていた。佐治氏は「重厚長大だけが産業やないで、軽薄短小もええやないか」と喝破し、内需型産業の重要性や、内需振興について、五島氏と議論を交わしている。(ダイヤモンド編集部)
五島氏「世界のトップ3になれる」
佐治氏「『美感遊創』が内需拡大に」
――世界経済の中でこれからの日本はどうなっていくのか、あるいはこうすべきだということをお話しいただきたいと思います。
五島昇 今嵐が吹いている。円高不況とか緊急な問題が出ていますね。まず国内の影響をあらゆる努力をして、それこそ業種転換をやっても切り抜けていかざるを得ない。この嵐が過ぎた後は、円高メリットが出てくる。
ゴルフのハンディキャップじゃないけれども、戦後36のハンディキャップが、ようやく18に上がった(対談当日は1ドル=175円)。だから、初めのうちはチョコレートを取られますよ。取られているうちに腕前をそこに近づけられるかどうかですよ。
私は日本の経済力はまだ若いと思うんです。決して構造的に米国のような大きな空洞化を起こしてないですからね。今はパフォーマンスがよく出ている。そうしてみると、おそらくハンディキャップ相応にはなると思うんです。そうなったとき、列強の中でも一人前になってくる。今までは経済的には世界で第3番だけれども、政治的に果たして第3番かどうか分からないでしょう。政治的には欧州の方が、格式が高いという気がする。ハンディキャップ相応になって、国際経済との摩擦が、だんだん解消していけば、政治的にも世界のナンバースリーにはなれる。
具体的にどうやったら内需拡大ができるか、今具体的な施策案が出ている。法律も通していかなきゃならないし、行政面で考えなきゃならないけれども、ちょっと心配なのは大型間接税です。これを下手に使うと本当の不況が出てくる。円高不況という言葉には、かなり掛け声不況がありますよ。部分的に厳しい業種もあるけれども、一方に円高メリットもあるんですからね。しかし、大型間接税のかけ方いかんによっては本当の不況が来る。これが一番怖いんだな。間接税については、商工会議所は最後まで抵抗する姿勢を崩さないでいるんですよ。
佐治敬三 ずいぶん長い間、輸出優先という姿勢で経済政策が行われてきたわけですが、考えてみますと、輸出は輸入を賄えればいいわけですな。日本が生きるためにどれだけの外貨が必要かという、そのあたりの目標値というものを政策基準として、もっと内需を拡大していくような政策が、今まで取れなかったわけじゃないと思うんです。
現在のような大幅な黒字を計上してしまったのは、日本だけの責任ではなしに、たぶんに米国産業界の対応の遅れという点もあるわけですけれども、結果としてそうなっている。日本の経済政策の運営が、過去何年間にわたって輸出奨励一本ヤリできたことが、現状のベースにあると思うんです。
例えば、今デザインということが盛んにいわれているわけですね。ファッションとかインテリアデザイン、グラフィックデザイン。そういうものは通産省の貿易局に検査デザイン課という所管部署があります。つまり、外国へ輸出する商品を検査するところで、そのデザインを輸出奨励のためにしっかりしたいいものにしていこうというわけです。そういう姿勢がまだ残っている。国全体の政策として、内需をどうやって拡大していったらいいかということを考える役所が、今までどこにもおらんわけです。通産省に生活産業局というのがありますが、あそこぐらいがそういったことを考える局で、今まではどっちかというと冷や飯を食っていた局です。最近はそれが脚光を浴び始めている。通産省の福川伸次さんが、これからの社会の価値観は美感遊創に置き換えていかなければならないと言っている。それが国内の内需拡大につながる。
五島 今は、デパートでも、ただ商品を並べていて売れる時代じゃないです。プラスアルファがなきゃならん。そのプラスアルファはなにかというと、結局、新しいデザインなり、ファッションなり、それが自分に向くかどうかということで、選択される。そういう時代になってきているんですよ。ところが、通産省の生活産業局は、そこまで踏み込んでない。横断的にファッションならファッションというものを捉えて奨励していく必要がある。
佐治 商売としてはね。われわれは一生懸命それをやっているわけですが、国の施策の中での位置付けがまだ弱いですね。これからの需要を盛り上げるものが美感遊創ですな。それは直ちに物につながらないんで、遊びの要素といえばレジャー、旅行などもあるでしょうね。
日本の生活の中で一番お粗末なのは住じゃないでしょうか。今度の施策の一つに、前川報告(経済構造調整研究会)でも住宅の充実ということを取り上げておられますね。確かにそうだと思います。外国と特に差があるのは住の内容じゃないですか。
――向こうに住んだ方は、皆さんそうおっしゃる。
佐治 うちらの社員はそんなにたくさん外国へ行っているわけじゃないですが、向こうへ行くと奥さんが一番喜びますな。ああいううちに住まわしてもろて、旦那がはよう帰ってくる(笑)。
――ある銀行の生活調査によると、日本のビジネスマンの夜の帰宅が平均的に8時16分です。ずいぶん遅くまで働くんですね。
五島 おそらく銀行に対するアンケートの答えだから、そうなんじゃないですか(笑)。実態はどうか分からん。
佐治 うちらやったらもっと遅いね。売り込みは夜の仕事ですからなぁ。
――みんながそんなに働いたら、消費にお金を使う時間がなくなる。
佐治 うちはその部分では、消費と商売とが一緒になっていますからね(笑)。
「週刊ダイヤモンド」1986年5月24日号
――週休2日制が完全に実施されると1兆8000億円、波及効果を入れると3兆円の需要喚起になるという調査もあります。また、有給休暇を完全実施すれば1兆2000億円の需要喚起という調査もあります。







