
昨春、サントリーホールディングスで10年ぶりに創業家出身者がトップに就任する“大政奉還”があった。創業120年超の歴史を誇る日本屈指の同族企業、サントリーの足跡をダイヤモンドの厳選記事を基にひもといていく。連載『ダイヤモンドで読み解く企業興亡史【サントリー編】』の本稿では、「週刊ダイヤモンド」1983年4月30日・5月7日合併号のサントリーの佐治敬三社長のインタビュー記事「ビールは2~3年後に張出大関ぐらいかな」を紹介する。佐治氏は参入から21年目のビールについて、相撲の位になぞらえ「将来性有望の小結」とし、「2~3年後には張出大関」を目指す意欲を明らかにしている。また、消費構造の変化を受け、「ビールならビールのある、ライフスタイルを売り込め」と販売手法も見直していく必要性も唱えている。(ダイヤモンド編集部)
経済を動かすのは「個人の欲望」
中産階級社会で消費を引き出す
佐治敬三 ビールは、まあ、おかげさんで、非常にいい数字。数量でいいますと前年比117%ぐらいですかね。ウイスキーの方も107%ぐらいいったんですかな。ただ、金額でいいますと、ウイスキーの方は安いもんがよう売れましてね。
――しかし、不景気の中でどうしてこんなに伸びるんでしょうね。
佐治 経済全体がいま様変わりちゅうか、転換期やと思うんですよ。これはもう数年前からそう申し上げておるんですけどね。ですから、いわゆる設備が設備を呼ぶというか、鉄が鉄を呼ぶというか、そういう時代はもう過去のもんになってるわけですね。
それは、一つは経済の成熟ということもあるし、経済を動かしているのは、最終的には個人の欲望ですから、その欲望が変わりつつあると思うんですね。そういう時代に、前と同じことをやっとったんでは、それはあんまりうまいこといかんのは当たり前やと思いますね。
――昔から食品には不況がないといわれていたわけです。それがいつの間にか、プールサイドでみんなお腹が大きくなりだしてから、食品業界にも不況が出てきたようですね。
佐治 それは、前と同じことをやっとるから、食品に不況があるわけでね。以前に、食品に不況がないといわれておった時代は、まだ貧しい時代ですよね。
日本の不況で、ほんとに個人の懐が前年より痛んだちゅう年は1~2年でしょう。それ以外の年は、皆さんやっぱり少しずつ豊かになっておられるわけですな。それから貯蓄率なんちゅうのは、依然として非常に高いですわね。ということは、消費すべき金がないという状態と違うと思うんですね。それをどういう具合に引き出していくかという引き出し方が問題で、これからも問題だと思います。
例えば、極端な話、「これは栄養があって、食べたら肥えますぜ」いうような食品は、かつては非常に求められた食品だと思うんですけど、いまの時代は、そんなことを言うても誰も食わんわな。
それは一つの象徴的な話ですけども、それと同じようなことがあらゆる局面でいえるんじゃないだろうかと私は思うんですけどね。
――そうですね、いろんな分野で、3次産業、昔、水商売といわれていたのが、いまいいんですね。
佐治 ですから、いわゆる1次産業、2次産業、3次産業という、非常に古い時代の産業分類なんちゅうのはもうぼちぼち改めて、消費者に一番近いところを1次産業にして、それから距離を隔てるに従って、2次産業、3次産業という具合に分類していったら面白い産業分類ができるのと違うかと思いますな。
「週刊ダイヤモンド」1983年4月30日・5月7日合併号
――そうしたら景気の動きも従来とは全然違った指標が出てきますね。
佐治 それで、いま景気悪い悪いちゅうなこと言うて、せっかく豊かにある消費を鈍らせることないと思うんですね。不景気論は消費に水を差しておるわけですわ。
このあいだ、竹下(登)さんが面白い話をしてましたな、日本の公務員の初任給と米国の兵隊さんの給料とを比較しましてね、ペルシャ湾で一生懸命働いておる米国の水兵の給料と日本の初任給と、日本の方が上やちゅうわけですな。全体平均すると、どうも米国の方が高いけど、米国は上の方が高いんで、下の方は低いわけですな。日本は下が高くて上が低いですわな。非常に平均化されておって、そういう意味では日本は本当の中産階級国ですね。だから、みんなが「貧しさよ、さようなら」いう時代やと思いますね。
そうすると、もう当然、消費構造、欲求、皆変わってくるわけですよね。その大きな変化をつかまえて経済を論じないといかんのと違うか。







