ポストSAPIX 中学受験の少数精鋭塾大解剖#17Photo by Toshimasa Ota

首都圏における中学受験塾の王者、SAPIX(サピックス)の次を担う中学受験塾はどこなのか。今、難関校志向を売りとする「少数精鋭型」の中学受験塾の人気が高まっている。知られざる少数精鋭塾の神髄を各塾のキーパーソンへの忖度(そんたく)なしのインタビューで明らかにする連載『ポストSAPIX 中学受験の少数精鋭塾大解剖』#17では、男子御三家、武蔵の合格実績に強みを持つ「進学教室アントレ」の天野友人・ひばりが丘教室教室長と対談。その前・中・後編のうち中編をお届けする。(教育ジャーナリスト おおたとしまさ)

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瞬発力が求められる復習主義を
子ども全員に求めるのは難しい

おおたとしまさ 予習主義をうたう中学受験塾は今どき絶滅危惧種だと思うので、さらに議論を深めたいと思います。

 復習主義だと、授業で初見の問題をやって「?」を感じた後にすぐに解法が示されてしまいますが、予習主義だと「?」を保持している時間が長い。復習主義の塾は、「世の中は初めて見る課題の連続だ」っていうし、それはその通りだと思うんですが、一方で、世の中には前提があって、それに対する自分の立ち位置とか、問題意識みたいなものがあって、その人なりの立場から、その人にとっての課題に取り組むわけですよね。

 実際の世の中では、前提のないところからいきなり「これを解きなさい」なんて問いが天から降ってくることは、実はない。その点、予習主義の方が、問いに対する自分なりのスタンスや距離感をじっくりつくってから自分なりの学びに向き合えるという違いはあると思います。その分、学び方は多様になってしまいますが。

天野友人・進学教室アントレひばりが丘教室教室長 授業で初見問題に取り組ませる復習主義のスタイルだと、反射神経や瞬発力が求められてしまいますが、現実問題として全員にそれを望むのは難しいですよ。

おおた 人間の理解の速度には違いがあるのが当然だし、のみ込みが早い人が偉いわけじゃない。だけど、例えばSAPIXでプリントが配られて「やってごらん」と言われる。“すごくできる子”は最初から分かってしまう。一部の天才肌の子はそうなる。解けなかったけれど、解説してもらって「なるほど」と理解できる“のみ込みの早い子”もいる。

 だけど、解説をしてもらってもその場では分からないまま帰る子も一定数はいる。彼らは帰ってから親に教えてもらうか、個別指導塾に行って解説してもらう。それを毎週繰り返す。そういう子たちにとって復習主義は常に周りに追い付くために量をこなす勉強になってしまう……。

天野 復習主義でも点が取れている子は楽しいと思いますが、そうじゃない子はつまらないし、つらいと思います。それじゃ身にも付きにくい。

おおた じっくり自分なりに準備体操をして仮説を立ててから解き方を教えてもらった方が、理解が定着しやすい子はいるでしょうね。AI(人工知能)のディープラーニングのように、復習を徹底的にやり込むことが苦痛でなければ効率的に得点力は身に付くのかもしれません。

 実際、今の中学受験塾は圧倒的に復習主義です。でも予習して、頭の中に「?」をため込んだ状態で授業に臨んで、「そこは予習の段階で分かっちゃったもんね!」なんて余裕をかます場面もありながら、「ここは分からなかったんだよ、どうやったら解けるの?」「ふむふむ」「あー、なるほど!」とようやく「?」が晴れる瞬間を味わうというのも勉強の醍醐味(だいごみ)ではありますよね。「?」をため込んでいる間は、授業が待ち遠しい。1990年くらいまでの中学受験塾はそのスタイルが主流でした。

天野 初見で「用意ドン!」も悪くありませんし、週テストがあれば到達度を感じられるでしょう。SAPIXさんや早稲アカ(早稲田アカデミー)さんなどで、テストで点が取れている子は、それはそれですてきです。

 でも、うちでは、土日に週テストはせず、授業もせず、家族の時間の一部を一緒の体験として予習に充て、授業に来て「楽しかった!」と帰ってもらう。復習は少しするかもしれないけれどメインは予習、というサイクルの方が、家庭学習の時間の置き方の配分としてプラスの面が大きいと思います。

おおた 問いに対しての自分の立ち位置をじっくりつくってから学ぶのが予習主義で、与えられた課題にさっと反応できるようにするのが復習主義ということになりますね。この差は生き方の差とすらいえるような気がします。