豪・米シムズ社のスクラップ集積所とリサイクル施設 写真提供:三井物産
脱炭素と地政学が鉄鋼産業の勢力図を変え始めている。高炉から電炉へのシフトが進み、その主原料である鉄スクラップは、単なる廃材から各国が囲い込む“都市鉱山”へと変わりつつある。こうした変化を20年近く前から見据えていたのが三井物産だ。長らく「失敗投資」とみられてきた豪・米シムズへの出資から撤退しなかった背景には、次代を見据えた長期戦略があった。連載『クローズアップ商社』の本稿では、鉄鉱石の王者が仕掛ける“次の鉄資源”への布石に迫る。(ダイヤモンド編集部 金山隆一)
世界の鉄鋼業界で進む電炉への大転換
“持つ”から“集める”鉄スクラップ時代へ
「鉄スクラップは非常に大事な資源になる」。三井物産金属資源本部製鋼原料部の平尾周大リサイクル事業室長はそう力を込める。
世界の鉄鋼業界で今、高炉から電炉への構造転換が進んでいるからだ。電炉は鉄鉱石ではなく鉄スクラップを主原料とし、CO2排出量を高炉の4分の1程度に抑えられるとされる。三井物産の試算では、世界の電炉比率は現在の約3割から2040年には45%近くまで上昇。鉄スクラップ需要も現在の7億トン強から11億トン前後へ拡大する見通しだ。
背景にあるのは脱炭素だけではない。米国では関税強化や中国鋼材排除の動きが進み、各国で再生資源の囲い込みが始まっている。
再生資源は“世界で流通する資源”から、“国内で回す戦略資源”へと変わりつつあるのだ。実際、中国やインドなど各国で鉄スクラップの輸出規制や課税措置が広がっており、鉄スクラップはエネルギーや食料と同様、“国内循環を優先する資源”へ変わり始めている。
だが、鉄スクラップは長年「もうからないビジネス」とみられてきた。
「スクラップは非常に大事な資源になってくる」三井物産金属資源本部製鋼原料部の平尾周大リサイクル事業室長
Photo by Ryuichi Kanayama
鉄鉱石のように鉱山権益を押さえれば済む世界ではない。発生源は社会全体に分散し、品質も不均一。「スクラップ加工会社は、加工する母材を市場から買ってこなければいけない。そこが鉄鉱石との大きな違い」。平尾氏はそう説明する。地下資源型の“持つ資源ビジネス”とは異なり、価値を生むのは「集める力」「選別する力」「流通させる力」だ。
三井物産は07年、豪・米スクラップ大手シムズメタル(現シムズ・リミテッド)に約970億円を投じた。当時の飯島彰己・金属資源本部長(後の社長)が主導した大型投資だった。しかし直後にリーマンショックが発生。その後も中国の過剰生産による鋼材輸出でスクラップ市況は長期低迷した。
世界的なスクラップ市況の低迷を受け、市場からは「失敗投資」と冷ややかな目を向けられることも少なくなかった三井物産のシムズ投資。それでも同社がかたくなに撤退を選ばなかった背景には、かつて巨額の利益を生み出すまでに20年以上を要した「鉄鉱石事業」の成功体験と、独自の長期投資哲学があった。
次ページでは、同社が世界各地で仕掛ける“都市鉱山ネットワーク”の全体像と、反転攻勢の裏付けとなる緻密な戦略を解き明かす。







