7月21日に行なわれた参議院選挙で、自民党・公明党はそれぞれ65議席と11議席を獲得し、6年前の2007年参院選以来、鳩山内閣を除いて続いていた「衆参ねじれ現象」を解消した。一方の民主党は、東京・大阪や一人区で全敗するなど、44の改選に対して17議席と惨敗し、昨年末の衆院選以来の退潮傾向に歯止めをかけることができなかった。こうした今回の参院選の結果をもたらした原因は何か、また当面、国政選挙がない中で、これからの日本政治の課題は何かを考えることにしたい。
社会争点より生活争点先行で
高い支持率維持
慶應義塾大学法学部教授。専門は政治学・政治過程論。1954 年、東京都出身。慶應義塾大学法学部政治学科、同大学院法学研究科博士課程修了(政治学)、法学博士。慶應義塾大学専任講師、助教授を経て1991年より現職。日本政治学会理事長、日本選挙学会理事長を歴任。精緻なデータ解析による選挙分析で有名。『政権交代:民主党政権は何であったのか』(中公新書)『制度改革以降の日本型民主主義』(木鐸社)『現代日本の政治過程』(東大出版会)『選挙制度』(丸善)『公共選択』(東大出版会)など著書、編著多数。
昨年末に安倍内閣が誕生したが、前回首相就任時の経験を活かした政権運営をしてきたことが、第一の勝因である。前回は、安倍首相の持論である教育基本法改正や憲法改正などの社会争点を全面に出し、有権者の関心が強い年金や景気・雇用などの生活争点が後回しになった印象をもたれた。このため発足時に高かった内閣支持率が漸減し、2007年参院選で29ある一人区の内、野党が23議席を取るなど大敗した。
これに対して、今回の安倍内閣では有権者にとって優先順位が高い景気対策などの生活争点をアベノミクスとして先行させ、発足時の高い内閣支持率を保ったまま選挙を迎えることができた。もちろん、アベノミクスの本当の成果はこれからであるが、第一の矢である金融緩和により、株価が1.5倍、対米ドル為替が2割円安となる効果があり、第一四半期の経済成長(年換算)4.1%をもたらしたのも事実である。
アベノミクスによる
景気回復への期待感
今回の参院選直前に行った調査(注)によれば、「これから景気の状態が良くなっていく」と感じる者が59%に達し、「悪くなっていく」の39%を上回っており、多くの有権者がアベノミクスに期待をもっていることがわかる。もっとも、自分自身の暮らし向きについては、「これから自分の生活状態が良くなっていく」と感じる者は41%に留まり、「悪くなっていく」の55%を下回っていることから、アベノミクスの効果を実感できている者は限定的である。つまり、株主や輸出依存企業関係者などを除けば、業績評価と言うよりも期待感による投票選択であり、今後、インフレ率を上回る給料引き上げを実現できるかどうかが求められる。
こうした与党のアベノミクスに対して、野党は様々な切り口から批判をしたが、景気や雇用のような生活争点は「景気や雇用が良い方が良いか悪い方が良いか」という対立軸はなく「景気も雇用も良い方が良い」という合意争点なだけに、与野党間の違いが手法や方法論の問題になり、明確な対立軸が見えにくかった。
(注)投票行動研究会(研究代表者:小林良彰)が投開票日前日まで行った全国電話調査(回収3025)