社外取10821人の全序列【2026最新版】熱狂バブルの落とし穴#4Photo:ilkercelik/gettyimages

ペンタブレット世界最大手のワコムが揺れている。社外取締役が代表を務めていた企業を約17億円で買収し、直後にその社外取を実務トップのCOOへ抜てきするという異例の人事が波紋を呼んでいるのだ。筆頭株主の英投資ファンドが「利益相反の疑い」を指摘して解任を迫る一方、井出信孝社長は「中長期的な成長に不可欠な戦略」と真っ向から反論。対立の構図から浮かび上がるのは、日本企業におけるガバナンスの実効性と、資本市場との対話に潜む深い溝だ。特集『社外取10821人の全序列【2026最新版】熱狂バブルの落とし穴』の#4で詳報する。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

シャープ出身の井出社長就任から8年
総会を前に突き付けられた解任要求

「大切なのは、ワコムがどういう価値を提供したいかをはっきりさせること。それはやはり『テクノロジーカンパニー』であるべきだと考えています」

 2018年、ワコムの社長兼CEO(最高経営責任者)に就任した井出信孝氏は、ダイヤモンド編集部のインタビューに対し、そう高らかに宣言していた(『ペンタブレット世界シェア9割、ワコムの次の手は「デジタル文具」』参照)。

 井出氏はシャープ出身で、13年にワコムへと転じた経歴を持つ。世界シェア9割を誇る同社の強みを客観的に見つめ、ニッチな「匠の技」に安住する組織をグローバル市場へ挑むテクノロジーカンパニーへと変革させるかじ取りを任された人物だ。

 そんなビジョンに、市場も期待を寄せた。実際、21年ごろにかけて、現在東証プライム上場のワコムの株価は井出社長就任時の2倍以上となり、TOPIX(東証株価指数)のパフォーマンスを大きく上回って推移していた。

 だが、就任から8年が経過した現在。直近の26年3月期連結決算こそ、ブランド製品事業の黒字定着などにより営業利益は133億8200万円(前期比31.1%増)と2桁増益を確保したものの、売上高は1099億9500万円(同4.9%減)と頭打ちの傾向をのぞかせる。

 6月の株主総会を前にワコムを覆っているのは、ガバナンスの透明性を巡る資本市場からの冷ややかな視線だ。同社の主要株主である英投資運用会社アセット・バリュー・インベスターズ(AVI)が、井出社長と中嶋崇史COO(最高執行責任者)の解任、および新たな社外取締役の選任を求めて株主提案に踏み切ったのである。

 解任要求の最大の理由は、当時社外取締役だった中嶋氏が代表を務める企業を約17億円で買収し、その直後に中嶋氏を実務トップのCOOへと抜てきした、前代未聞の「スライド人事」だ。経営を監視すべき立場の社外取締役が自らの赤字企業を売り抜けるかのようにして執行部に入る構図に対し、AVIは利益相反の疑念を厳しく突き付けている。

 こうした数々の疑念について、ダイヤモンド編集部は井出社長に直接見解を問う取材を敢行した。なぜ監視役であるはずの社外取締役が、自身の会社をワコムに買収させ、自ら実務トップの座に就いたのか――。次ページでは、井出社長自らの回答から、17億円の買収劇を巡る対立の焦点を浮き彫りにする。形式的な手続きさえ踏めば何をしても許されるのか。適法か、それとも企業統治の逸脱か。問われる「ガバナンスのリアル」に迫る。