かつて日本では「国民病」「亡国病」などと恐れられていた結核。国をあげての予防や治療によって死亡率は劇的に下がり、蔓延していた当時の100分の1以下になったと言われている。しかし、世界の多くの国や地域ではまだまだ結核で苦しみ、亡くなる人は多い。アフリカ諸国もそうで、各国の健康・保健行政の課題のなかで、HIV/エイズ、マラリアと並ぶ重大な課題である。今回はタンザニアを例に、アフリカでの結核治療の現状と課題をレポートする。そこには急速な経済発展、都市化、人口増大という成長するアフリカ特有の課題があり、ゆえに医療体制はもちろん財源の確保が追いついていない現状が見えてきた。(取材・文/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)
「祈祷師サマータの
方を信頼している」
タンザニアの中心都市、ダルエスサラームから車で数分のところにある、テメケ地域。住民の多くは貧困層で、上下水道や電気、ガスなどの都市インフラが整備されていないスラムで暮らす。
その一角、外見は普通の家で、タンザニアの地域医療を支える医療従事者が、開業していた。その医療従事者とは、トラディショナル・ヒーラー。日本語で言えば、伝統的な祈祷師ということになる。
処置室には靴を脱いで入る。広さは3畳ほどだ。電気どころか、机も椅子も空調もない。床も剥げかけたボロボロのマットが敷いてあるだけだ。外は30度を超す猛暑。中は蒸し風呂状態で、健康な大人でも暑さと埃でむせかえり、クラクラするほどだ。
ヒーラーの名前は、サマータ。76歳だという。
「いつからヒーラーをやっているか、それは忘れた。胃や胸、頭の痛みを治療できる」
そう得意げに話すサマータ。テメケ地区はHIV/エイズや結核、マラリアなどの感染症に悩む患者も多い地区。果たしてこの人物が、最新の医療設備も何もないこの小さな部屋で病気を治療できるのだろうか。