また、現在の日本は多くの事業機会に溢れ、スタートアップをするには非常に魅力的です。高齢化が世界で一番進み、経済成長は横ばいというイメージからすると意外かもしれません。しかし、多くの衰退産業がある中で日本全体が経済成長横ばいということは、衰退産業を補う分だけ成長産業があるということです。まさにインターネットやITがそれです。投資家的な言い方をすると、伸びている領域に張るのが鉄板です。

 日本における産業規模と成長率(2005年~2010年)

2000年代はスタートアップ天国                     出所:日本政府内閣府(2011年)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界に10年先駆ける日本のモバイル

 さらにその中でも、特にモバイルは世界に対して大きな競争優位があります。日本では1999年にNTTドコモがiモードを開始して、世界に先駆け携帯電話からインターネットを使えるサービスを開始しました。データ通信の定額料金制度やキャリアのコンテンツ/サービス開発促進施策で、10年間のあいだにさまざまなサービスが出てきました。着メロ、着うた、音楽ダウンロード、モバイルコマース、おサイフケータイなど世界で唯一の先進的なサービスが展開されました。先進的なサービスがどんどん出てくる中、ユーザ側もどんどんモバイルインターネットを使いこなすようになっていき、要求も厳しくなりっていきました。そのような厳しい消費者に磨かれ、日本のモバイルサービスはどんどん洗練されたものになっていきました。

 たとえば2010年には、世界で有数のテクノロジー・カンファレンス「Web2.0 Conference」で、モルガンスタンレーのカリスマ・アナリストMary Meeker(当時。現在はアメリカトップVCのKleiner Perkins Caufield &Byersのパートナー)が、毎年恒例の名物講演で「モバイルインターネットは日本が世界の10年先を行っている。世界は、モバイルインターネットは日本をベンチマークすべき」と語りました。海外の一流の投資家も日本のベンチャーのチャンスを大きく評価しています。

 現在私がパートナーを務めるグロービス・キャピタルは、投資家のお金をお預かりし、日本のベンチャーに投資をしているベンチャー・キャピタル・ファンドです。我々の投資家のほとんどは海外の投資家なのですが、数兆円運用する年金基金、世界に名だたる機関投資家、世界的に有名なグローバル企業の創業者などが、日本におけるベンチャーの機会を評価し、我々にお金を預けてくれています。

ネットバブル以来の起業ブームに

 実際、学生や20代の若者を中心にいまだかつてないほどに多くのベンチャーが誕生してきています。体感値としては、ネットバブル以来の起業ブームです。自分軸の幸せを追求すれば幸せになる、万が一達成できなくても満足感こそあれ、後悔はしないという意味では非常に喜ばしいことです。とは言え、想いを成し遂げ、目標を達成するに越したことはありません。

 しかし、現実はそうもいきません。スタートアップをする母数が増えて、むしろ成功する確率は減ったと言えるかもしれません。人、金、モノと言った経営資源に乏しいベンチャーが大企業と伍して戦い、そして勝ち切るためには、裸で臨んでも勝算はありません。勢いと“やってみなきゃわからない”と言った突撃精神で勝てる程甘くはありません。人、金、モノの形である資源で劣るからこそ、チエ=勝つための戦略がスタートアップにとってはクリティカルなのです。

 この連載では、勝ち切るための戦略のフレームワークを皆さんとシェアしたいと思います。すべてのスタートアップに共通した「こうしたら絶対に勝つ」というハメ技はありません。各スタートアップのおかれた競争環境や成長ステージに応じた、考え方のセオリーを提供できればと思っています。

                (次回は8月13日に公開予定です。)