バブルの様相を呈するM&A業界

 いつからだろうか。私が所属する『週刊ダイヤモンド』(現『DIAMOND WEEKLY』)で恒例となっている、上場企業を対象にした給料ランキングを眺めていると、総合商社やテレビ局、大手不動産会社を押しのけて、聞き慣れない会社が現れだした。

 M&Aキャピタルパートナーズ、日本M&Aセンター、ストライク。

 各社の年収は年によって変わるが、M&Aキャピタルパートナーズの年収は2000万円をゆうに超え、2位と大差をつけていた。部長や役員に限定した金額ではない。従業員の平均だ。

 この3社は、中小企業のM&Aを仲介する会社である。

「M&A (Mergers and Acquisitions)」とは、企業の買収と合併を意味する。要するに会社の売買のことだ。そして、会社を売却したい「売り手企業」のオーナーと、その会社を買いたい「買い手企業」の間に立って、仲介するのがM&A仲介会社である。

 業界最大手の日本M&Aセンターの会社資料を読むと、後継者不足で黒字倒産する企業が増えることは日本の基幹産業である製造業の根幹を揺るがすこと、そして、その解決方法が事業承継を目的としたM&Aであることが記されていた。

 恥ずかしげもなく自らを救世主のように喧伝するM&A仲介会社に違和感を覚え、2021年からM&Aとそれを取り巻く業界について取材を始めた。

 事業承継のM&Aについて、国は税制優遇や補助金制度を導入している。それに、当時のM&A仲介業は、認可も資格も必要なく、誰でも参入可能だった。

 会社を売るのはカネになる。

 このころからM&A仲介業界は急拡大を遂げ、バブルの様相を呈していた。

 しかし、敷居が低くなれば、“不純物”も紛れ込む。

 実際に取材を進めると、「買い手企業に騙された」「M&A仲介会社が約束を守らない」「M&A後に、家業がメチャクチャになった」など、さまざまな声が聞こえてきた。

 船井電機の破産もM&Aで起きているトラブルの延長線上にあるのだろうか――。

 企業が繰り広げる栄枯盛衰の裏側を覗くと、そこには魑魅魍魎が跋扈するダークサイドが現れるのだった。

(※本稿は片田江康男記者の新刊『社喰い』(ダイヤモンド社)を抜粋・編集した記事です)

片田江康男(かたたえ・やすお)
記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。2006年より『週刊ダイヤモンド』記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。2021年からM&A業界を取材。M&Aのダークサイドに踏み込んだ『社喰い』(ダイヤモンド社刊)が好評発売中。

Key Visual by Kaoru Kurata, Kanako Onda