エネルギー動乱Photo:Bloomberg/gettyimages

AI需要の増加とともに拡大が見込まれるデータセンターだが、その規模が膨張するにつれ、電力の系統接続や環境面での問題が表面化している。さらに、中国勢の台頭によってAIモデルの低価格化が進み、市場のパワーバランスにも変化の兆しが見え始めている。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、データセンター事業が直面する課題とともに、米中間の熾烈な競争と日本の現在地について解説する。(アクセンチュア素材・エネルギー本部マネジング・ディレクター 巽 直樹)

地方へ押し出されるデータセンター
地域政治の争点に

「クラウド」は、どこにでも置ける産業ではなかった。米ニューヨーク大学の研究によれば、米国本土の商用データセンター(DC)4283カ所の97.5%は大都市圏または小都市圏統計地域に位置する。電力網、高速通信網、IT人材といった既存インフラを使える場所に集積してきたからだ。一方、米ピュー・リサーチ・センター(PRC)の別集計では、稼働中DCの87%が都市部にあるのに対し、計画中では67%が農村部にある。AI向けDCの巨大化により、都市インフラへの依存では成長し切れず、立地が外側へ押し出され始めている。

 しかし、地方へ移れば問題が解けるわけではない。2026年1~3月だけでも、地域住民の反対などによって少なくとも75件、約1300億ドルのDC計画が阻止または遅延したとの集計がある。PRCの調査でも、DCに関する情報に多く接している人ほど、電気料金や環境、近隣住民の生活への悪影響を懸念する割合が高い。水使用、騒音、土地利用、電気料金、景観などを巡り、DCは各地で地域政治の争点になり始めている。

 26年に入るとモラトリアムや立地規制を巡る議論は全米各地へ拡大し、同年8月には、シカゴでは新規建設の是非、ナッシュビルでは自治体の立地権限が政治問題になった。かつて税収や投資を呼ぶ歓迎施設だったDCが、発電所や物流倉庫と同じように、地域社会から「受け入れ条件」を突き付けられる迷惑施設へと変わったのである。

 これまで筆者は、AIの成長を最終的に制約するのは電力だと論じてきた(26年4月10日配信『電力を食い尽くし人間の仕事を奪う…大転換する「AI・エネルギー供給者・ホワイトカラー」3者の“支配関係”を専門家が徹底解説』参照)。また、AI需要の真贋が判明しないまま電力インフラ投資を進めるリスクも取り上げた(26年5月26日配信『AIブームが巻き起こす「電力インフラの熱狂」とITバブルの共通点・相違点とは?電力業界がやがて迎える投資判断のリスクを専門家が徹底考察!』参照)。

 しかし、米国でいま顕在化しているのは、需要予測の不確実性とは別の問題である。AI需要が想定通り拡大しても、地域社会の受容、系統接続、環境目標との整合という三つの条件がそろわなければ、DCを計画通り建設し、稼働させることはできない。

 次ページでは、DCが直面している具体的な課題とともに、日米中の現在地について解説する。