関西電力の美浜原子力発電所 Photo:PIXTA
前編では、エネルギー業界のマクロ動向を左右するテーマを取り上げた。後編となる長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、このマクロのアジェンダを念頭に置きつつ、より深刻度を増すミクロ動向の五大テーマを取り上げる。OCCTOショックが突き付けた現実、原子力推進を阻む真の障壁、そしてAI活用の真価とは。2026年、日本が集中すべき「モア・フロム・レス」の道筋と、そこで起きる産業構造の激変について解説する。(アクセンチュア 素材・エネルギー本部マネジング・ディレクター 巽 直樹)
エネルギー問題の考察では
「出羽守言説」に懐疑的に
エネルギー産業における市場構造は、グローバルには原油取引などの国際市況を持つコモディティ市場が発達している。地政学的な影響を大きく受ける資源エネルギーの上流に位置する領域であるが、ここでは金融市場のような市場メカニズムが一定機能しており、各国間でのプロトコル(共通のルールや取り決め)も相対的に成立しやすい。
一方で、各国・地域のローカルに目を向けると、1次資源の有無、島国か大陸のどこに位置するかなどの地政学的側面に加え、それぞれの経済地理学的な特性を反映したローカル市場が形成される。電力市場はその最たるもので、各国・地域間での条件が異なると、別の場所での再現性が低い。
このようなことから、エネルギー分野において何かを説明しようとしている文章で、「先行する海外では……」という「では」を用いる言い回し、いわゆる出羽守言説には、筆者ははなから懐疑的に見てしまう習慣が長年の間に身に染みている。日本人がエネルギーの問題を考える際、これは重要な視点である。
後編で扱うミクロ的な問題も、各国・地域に共通のアジェンダもあれば、それと同じくらい独自のアジェンダもある。本稿ではもちろん後者、かつ日本での重要テーマを取り上げる。もちろん、前者についても日本に示唆のある問題については、出羽守を意識するあまりに故意に退けるようなことはせず取り上げていきたい。
来年こそは、エネルギー産業は「モア・フロム・レスへの集中」と「レス・フロム・モアの放棄」が進む年であってほしいと筆者は願っている。アンドリュー・マカフィーが提唱した「モア・フロム・レス」は、「より少ない資源投入でより多くの生産物を得ること」であった(2025年7月29日配信『東電系送配電会社首脳が自ら提唱「電力・通信インフラの連携構想」を解説!従来の“集中型”電力システムとの違いと、最大のボトルネックとは』参照)。
その真逆を行く「レス・フロム・モア」のビジネスは、結論ありきの議論の磁場に、安全保障や経済性はおろか、環境適合をも最終的に毀損してしまうアイデアが砂鉄のように集まってくる。そうしたものを一つ一つ剥がしてゆくことを高市政権には期待したい。そこで次ページでは、ミクロ動向に関連するテーマを五つ取り上げる。







