Photo by Hiroyuki Oya
自動車業界が量子コンピューターの活用に本腰を入れ始めた。量子コンピューター関連のアルゴリズム開発などを手掛けるテラスカイの子会社Quemixは、トヨタ自動車や日産自動車などの大手自動車メーカーと共同研究を手掛け、8月にはホンダから出資を受けた。特集『「ポストAI」へ投資バトル 熱狂!量子覇権』の本稿では、Quemixの松下雄一郎代表取締役CEO(最高経営責任者)に、自動車業界が量子コンピューターに関心を持ち始めた理由や、「キラーアプリ」となり得る使い道などを聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
自動車業界が量子産業に本格参入
具体的なニーズに基づいた研究にシフト
――高市政権の戦略17分野に「量子」が入るなど、量子産業への注目が高まっています。現状をどのように見ていますか。
自動車関連企業が本格参入し始めたことが、大きな変化だと感じています。特に、基礎研究にとどまらず、「いち早く実用化したい」という実践的な意識を持ったプレーヤーが増えてきました。その結果、アカデミア主導から、「こういう解決策が欲しい」という産業界の具体的なニーズに基づいた研究へとシフトし、実践的なユースケースが次々と生まれた一年だったと実感しています。
――産業界側の変化のきっかけになったのは何でしょうか。
現時点では、各企業の自発的な判断が大きいと思います。「量子技術が実際にどこまで使えるのか」を、自ら見極めようとする動きですね。各社が本当に解決したい課題をストレートに提示し、それを実際に試して検証するフェーズに入っています。つまり、企業自身の実用化に向けた強い関心こそが、現在の変化を生み出しているのだと考えています。
――量子関連産業の業界団体が発足した数年前でも、業界側は似たようなアプローチはできたと思うのですが。
従来はアカデミア発の情報が議論の主軸であり、海外のトレンドや識者の意見に追随する企業が大半を占めていたのではないでしょうか。しかし最近は、そうした潮流にただ乗るのではなく、「自社の事業への実用性を見極めたい」という企業の声が大きくなってきました。
そして、そうした企業に共通しているのかなと私が感じるのは、一時的な「NISQ(ノイズあり中規模量子コンピューター)」ではなく、最初から本命である「FTQC(誤り耐性量子コンピューター)」を見据えている点です。
――数年前はNISQが注目を集めていましたが、もうNISQじゃない、と。
少なくとも、現在私たちが対話している企業の方々の多くは、「NISQではなく、FTQCでどのような実用計算ができるのかを知りたい」と言いますね。FTQCに対する業界の空気感は、ここ最近、劇的に変わりました。実践的なユースケースの事例が立ち上がってきた今だからこそ、「今が参入のチャンスだ」と捉えられているのではないでしょうか。
――FTQCはまだまだ実現が先の技術目標だった印象です。
潮目が変わったのは2、3年ほど前ですね。一口にFTQCと言っても、大きく二つに分かれます。完全な本格的FTQCと、その前段階に当たる初期フェーズの「Early FTQC(早期誤り耐性量子コンピューター)」です。現在、主要なハードウエア開発企業から、このEarly FTQCに向けた具体的なロードマップが提示されています。早い企業では今年(2026年)中の展開を掲げていますし、遅くとも30年までにはEarly FTQCの時代に突入するという見方が業界内で強まっています。
――QuemixはもともとFTQCに焦点を絞っていて、以前に取材した際には、かなり未来のことをやっているなという印象でしたが、いつの間にか主流になってきた感じですかね。
まさにそうですね。昔は「目指すべきはFTQCだ」って言っても、「まだまだずっと先の話だね」と苦笑いされるような反応が多かったです(笑)。ですが、業界全体でFTQCに対する見方がここ数年で劇的に変わったことで、私たちの取り組みを知っていただけるようになりました。現在では「FTQCの時代を見据えて、今から何に取り組むべきか」という具体的な相談が多く寄せられるようになりました。
――「FTQCだ」と産業界の認識が変わったきっかけは何だと思いますか。
次ページでは、8月にホンダから出資を受けた背景や、トヨタ自動車や日産自動車と共同研究をしたきっかけ、自動車業界が狙う量子コンピューターの「キラーアプリ」の候補について松下氏に語ってもらった。







