Photo by Tohru Sasaki
三菱ガス化学は2026年3月期に800億円を超える減損損失を計上し、最終損益が約400億円の赤字に沈んだ。13年ぶりの赤字転落となったが、株価は赤字見通しを発表した昨秋から上昇基調となり、足元の株価も昨秋に比べ5割前後高い水準にある。背景には、半導体材料や光学樹脂材料など利益の約8割を稼ぐICT(情報通信技術)分野の好調がある。特集『化学サバイバル!』の本稿では、同社で初めて研究開発畑から社長に就いた伊佐早禎則氏を直撃し、“隠れ半導体企業”ともいわれる同社の強みに加え、次の収益の柱について語ってもらった。また、前期の赤字転落の原因となった海外プラント工事からの撤退の裏でどのような経営判断があったのかについても明かしてもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部 金山隆一)
生産品の約9割を自社で開発
三菱ガス化学は“隠れ半導体企業”
――三菱ガス化学は一言で言うと、どんな会社なのでしょうか。
もともとは二つの流れを持った会社です。一つは三菱江戸川化学で、お客さまの要求に応えてものを作ってきました。もう一つが日本瓦斯化学工業で、天然ガスから化合物を作る技術を持っていました。1971年にこの二つが一緒になりました。
他の化学会社はナフサ(粗製ガソリン)を起点にするところが多いですが、われわれは天然ガスから作れるものを持つ一方、お客さまと一緒に市場の要求に合うものを作ってきました。生産品目の9割以上が自社開発技術で、お客さまに刺さる製品を作ってきたことが強みです。
――2026年3月期は約800億円の減損損失を計上し、最終赤字になりました。それでもPBR(株価純資産倍率)は大手総合化学メーカーを上回っています。
三菱ガス化学は電子材料を昔から手掛けてきましたが、当時はそれほどもうかる事業ではありませんでした。それが半導体やAIが世界をつくっていく潮流に非常にミートして、大きく伸びてきました。
ただ、「三菱ガス化学」という名前では、半導体をやっている会社とは思えないでしょうね。今回は「隠れ半導体関連株」みたいな形で大きく取り上げられたとみています。
――BT材料(半導体パッケージ基板材料)や超純過酸化水素(半導体ウエハーの洗浄に使う薬液)は、いずれも世界シェア1位です。なぜ今、大きく伸びているのでしょうか。
BT材料はかなり古くから手掛けてきた事業です。ただし、同じ材料をずっと作り続けてきたわけではありません。お客さまが新しい製品を立ち上げるたびに、「次はこういう性能が欲しい」という要求が出てきます。
それに合わせて材料を変え、品質を上げて、一緒に製品を作り上げてきた。その積み重ねが非常に大きいと思います。光学樹脂材料もそうです。私が入社した頃はデジタルカメラ向けでした。それがスマートフォンに替わり、カメラを持つ人が一部の人から世界中の人に広がり、それで市場が一気に大きくなりました。われわれが昔から持っていた技術と市場の変化がうまくミートしたわけです。
一方で、研究開発のやり方そのものもかなり変えてきました。以前なら、いろいろな材料を作って実験して、駄目ならまた作り直すということを繰り返していました。今は、かなりの部分まで計算で設計できるようになっています。
例えば、競合が新しい材料を開発するのに1年かかるとすれば、われわれは半年以下でお客さまの課題に応えられることもあります。さらに、お客さまから正式に来る要求や苦情だけを聞いているのではなく、「実はここがちょっと使いにくいんだよね」といった“つぶやき”まで聞ける関係もつくってきました。そういう情報を研究開発にすぐ戻して、次の材料につなげる。長年お客さまと一緒にやってきた蓄積も含めると、競合とはスタートする発射台そのものが違うと思っています。
――26年3月期の約800億円の減損損失の一つの要因は、オランダのMXDA(橋や工場設備をさびから守る塗料の材料)の新プラントの建設中止です。なぜ中止を決断したのでしょうか。
オランダの新プラントは工事が7割ほどまで進んでいたが、それでも同事業からの撤退を選んだ。次ページでは、伊佐早氏が巨額減損を決断した理由を明らかにする。また、サウジアラビアにある同社最大のメタノール工場がホルムズ海峡危機で受けた影響に加え、AIブームに沸く半導体材料市況の見通しも語ってもらった。半導体材料に軸足を移す中で、社名変更を検討するかどうかについても聞いた。







