
中学受験では近年、偏差値や有名大学合格実績では測れない「非認知能力」が注目され、入試問題が大きく変化している。このトレンドを踏まえ、学校選びや家庭での教育はどうあるべきか。特集『わが子がもっと伸びる!中高一貫校&塾&小学校【2027年入試版】』の#19では、岩佐峰之・龍谷大学付属平安高等学校・中学校校長と、中学受験塾における東の横綱、SAPIX(サピックス)の広野雅明教育事業本部本部長、そして西の横綱、浜学園の松本茂学園長が鼎談。近年の中学受験のキーワードである「非認知能力」の育成法や、人気を集める私立中高一貫校の特徴とその見分け方、そして入試本番まで残り4カ月余りに迫った2027年入試の受験生を持つ親の心構えと声かけ術までを語った。その鼎談の「前編」をお届けする。(聞き手/ダイヤモンド編集部 宮原啓彰)
「詰め込み教育」の限界
入試で問われる「非認知能力」
――近年、「非認知能力」の育成を掲げる私立の中高一貫校や高校が増えています。まず、学校の教育現場におけるその変化についてお聞かせください。
岩佐峰之・龍谷大学付属平安高等学校・中学校校長 私はこれまで京都市立高等学校の改革に携わり、中でも(「京都公立御三家」と呼ばれ、例年、京都大学に50人前後の合格者を輩出する)京都市立堀川高校の改革において、「探究活動」が大きくクローズアップされました。
もう四半世紀ほど前になりますが、私が同校に赴任したのは、まだ「人間探究科」「自然探究科」の1期生も卒業しておらず、「堀川の奇跡」(※編集部注:堀川高校は1999年、「人間探究科」「自然探究科」を設立し、探究科1期生が卒業した2002年、国公立大学への現役合格者数が前年の6人から106人へ飛躍した)と呼ばれる以前のことになります。
その後の「奇跡」とまでいわれたストーリーを思い返して断言できることは、「もはや『詰め込み教育』だけでは限界だ」ということです。
「○○大学に何人合格しました」ということが各中高一貫校、高校の売りであることは、今も昔も変わりません。ですが現在は、それだけではなく「何のためにその大学に行き、何を学ぶのか。そして、そのために中高で何を学ぶのか」という、将来のビジョンを描ける環境がある学校なのかどうかが問われています。
いわさ・みねゆき/龍谷大学付属平安高等学校・中学校校長。1966年生まれ。90年より京都市立中学校に理科教諭として勤務。11年間の中学校での教員生活を経て、2001年から京都市立堀川高等学校、08年から京都市立西京高等学校・附属中学校で勤務。堀川高校ではスーパーサイエンスハイスクール(SSH)、西京高校ではスーパーグローバルハイスクール(SGH)の導入を担当。また、西京高校・附属中学校において、中高一貫教育推進部長、教頭を歴任し、20年から26年3月まで校長を務めた。26年4月より現職。
例えば、京都大学の特色入試でも、大学入学共通テストで高得点を取るのは大前提として、「あなたは高校で何をしてきたのですか?」としっかり聞かれる。大学における学びの設計書を書かされたり、口頭試問を受けたりと、インプットした知識だけを測定するのではなく、「それをどう活用できるか」「何をどう学んできたのか」を試す入試が広がっています。
片や、これまで多くの高校が重きを置いていたのは「認知能力」です。つまり、ペーパー試験による点数で測定できる学力の向上です。ですが、その認知能力を上げるための土台として、数値化できない非認知能力を育成することが重要であることが分かっています。では、その非認知能力をどう鍛えるのか。その答えの一つが先に述べた探究活動で、知識だけでなく、自分で課題を見つけ、どう解決していくのか、というプロセスが学べます。中高生の間の探究活動を大学での研究につなげていく――。あるいは研究でなくても、一種のキャリア教育として自分がやりたいことがどうすれば実現できるのかを試行錯誤することが、非認知能力を育むのではないか、と現場感覚から強く感じますね。
――学校、あるいは保護者の非認知能力への関心の高さを受けて、中学受験塾でも教え方や学校選びに変化が起きているのでしょうか。
広野雅明・SAPIX(サピックス)教育事業本部本部長 そうですね。(非認知能力の重視による)一番の変化は授業の改善です。授業を変えなければ、非認知能力は育ちません。もはや「これを覚えろ」「これはこうやるのだ」ということだけでは、限界が見えてきたのかなと感じています。つまり、一方的な、いわゆる「チョーク・アンド・トーク」だけの授業ではなく、子どもたちにはちょっと分かりにくいような、それでいて、子どもたちが「もっと知りたい」「解けるようになりたい」と思えるような一種のモヤモヤを抱え、家庭学習で次の授業に備えるという、いわゆる「学びの姿勢」を授業で育まないと、昨今の入試問題には十分に対応できないと考えています。
ひろの・まさあき/SAPIX草創期から算数を指導、算数科教科責任者や教務部長などを歴任。現在は入試情報や広報、新規事業などを担う。
先日たまたま、理科の先生と一緒にしゃべっていて印象的だったのが、「最近の入試問題は、答えが問題文に全部書いてある」と。10年前だと、いかに知識を細かくたくさん覚えたかで入試の合否が決まっていたのが、近年は答えになるような知識はほとんど問題文に文字通り書かれていて、その知識を単純に暗記している子どもは点数が取れないような作問になっています。
問題文をきちんと読み、それがどういう意味なのかを理解し、他の知識とどうつながっているのかを考えなければ、おいそれと答えが出ない。詰め込み型の勉強ではそのような問題は対応できませんし、むしろ授業や家庭学習でいっぱい間違ってもらうことによって、「なんで×なのか」「なんで○なのか」「問題文にどういうヒントが隠れているのか」を自分で考え、自ら答えを発見させるような学びをしていかないといけません。自分の力で問題が解けたという体験がないと、今の入試には立ち打ちできなくなってきています。
中高一貫校の入試担当の先生方もこうした考えを共有していて、入試問題がより高度な思考力を測る方向へとシフトしています。当然、塾はその存在意義として入試を突破させなければいけないので、授業も一昔前と比べてかなり変わってきました。
松本茂・浜学園学園長 少し違う話になるかもしれないのですが、関西では「浜学園はものすごく難しいことを子どもにやらせるので、家庭学習が大変だ」とぼやかれるんですけど、実際、浜学園では少しばかりの負荷を次の授業までの1週間の家庭学習でかけています。なぜそのような負荷をかけるのかといえば、授業で習った知識(認知能力)を使って、その少し分からない問題、いわば非認知能力を鍛えるような問題にチャレンジする時間を子どもに持たせたいからです。
まつもと・しげる/浜学園学園長。同塾講師歴26年。社会科主席主管を務めた後、2022年4月より現職。
ただ、少し前までの保護者の多くは、わが子が「分かった」と言ってくれることばかりを期待されていたので、すぐに「これを覚えとけばいい」「こういう解き方をした方がいい」という家庭学習をしがちでした。今は保護者の方々の感覚も変わり、非認知能力の土台となる知識をきちんと教えた上で、それに少しプラスした難問に取り組ませ、解ける、解けないということよりも、どこまで頑張ったかということを評価する姿勢になっています。
岩佐先生がおっしゃったように、基礎学力、つまり認知能力がないと非認知能力は身に付かず、逆もまたしかり、という表裏一体の関係にあると思います。子どもが中学進学後、自分でやりたいことを見つけ、そのためには何をするべきなのかという「自律」のための経験値を積ませることが、これからの中学受験塾の価値になっていくだろうと考えています。
次ページでは、中学入試突破や入学後も伸びる子どもに共通する「自律」の育み方について三者が伝授する。







