米国の半導体製造“国内回帰”と国策投資の成否、総工費20兆円の巨大工場「テラファブ」イーロン・マスクの野望と死角米テキサス州にスペースXとテスラが建設する次世代半導体工場「Terafab(テラファブ)」の完成予想図 Photo:TERAFAB (c)SpaceX

米トランプ政権が国家安全保障上の理由から、半導体製造の米国回帰政策を強化して2年近くになる。この間に、既存計画の大幅拡大や新規参入も含めて、テック大手による投資計画の多くが加速している。特に、2026年に入って発表されたスペースXの「世界一の規模を誇る半導体工場」は、戦略物資である最先端半導体の自給自足体制を構築するという「国策」に沿ったものであり、成否が注目される。台湾のTSMCおよび韓国サムスン電子の米国工場の計画拡大、その後を追う米国勢のインテルとスペースXの野心的な計画、そして米国の半導体国内生産計画の行方を占う。(在米ジャーナリスト・岩田太郎)

「国策」に沿った国内回帰
半導体の自給自足を目指す

 トランプ大統領は就任直後の2025年3月に、TSMC(積体電路製造)の対米追加投資を発表した際に、「世界で最も性能が高いAI半導体がここ米国で製造される」と述べ、中国とのAIおよび半導体競争を念頭に、最先端チップの自給自足のために国内半導体工場を米国に「回帰」させる方針を明確に打ち出した。

 ラトニック商務長官は25年9月に、「現在のところ米国は(製造能力が凋落して)世界の半導体生産シェアのわずか10%を占めるに過ぎないが、これを40%、できれば50%にまで引き上げて合理的な自給自足体制(reasonable self-sufficiency)を達成したい」と、具体的な目標を示している。

 加えて26年1月には、ホワイトハウスが半導体に関する宣言を発表し、改めて「米国の半導体に関する対外依存は国家安全保障上のリスク」であると規定。現状を打破すべく、外国からの輸入への依存を減らし、国内生産を増やすとの方針を再確認した。

 これらの動きは、第1次トランプ政権下の21年1月に成立した国防授権法に基づき、バイデン前政権下で22年8月に成立したCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)が目指した「経済安全保障の強化」を継承し、さらに明確に推し進めるものだ。

 この法律により、半導体製造の国内回帰は国策として位置付けられ、成立から5年間で総額527億ドル(約8兆1505億円)の補助金が用意された。こうして始動した半導体製造の米国回帰は26年に入り、さらに規模が拡大している。

最初に台湾勢と韓国勢を呼び込み
TSMCへの補助金は1兆円に

 米国政府の方針は、バイデン前政権時代から、最先端ロジック半導体の量産能力がある台湾勢と韓国勢を呼び込み、米半導体産業回復の弾みをつけるところにあった。

 TSMCは22年12月に、西部アリゾナ州フェニックス工場で半導体製造とパッケージングを行う1号棟と2号棟に合わせて400億ドル(約6兆2000億円)の投資を実施することを発表。24年4月には3号棟が追加され、投資額は全体で650億ドル(約10兆円)へと積み増しされた。

 第2次トランプ政権が発足すると、TSMCの投資は25年3月に4号棟を含めた1650億ドル(約25兆5000億円)まで膨れ上がる。さらに26年7月には5号棟と6号棟を加えた2650億ドル(約41兆円)規模へと拡大している。同社が受け取るCHIPSプラス法による補助金総額は最大66億ドル(約1兆円)に達すると見込まれる。

 1号棟での量産は24年10~12月期に始まっており、2号棟でも量産が27年後半に開始される予定だ。3号棟と4号棟は建設中であり、6棟すべての工場が完成すれば、ウエハーの月産能力は12万5000~15万枚になると予想される。ただし、当初は製品を最終仕上げのため台湾に送る必要があり、完全な自己完結型とはいえない。

 この一連のアリゾナ州における生産能力拡大に加えて、TSMCが南部テキサス州ダラス近郊に米国第2拠点として、既存アリゾナ拠点の2650億ドルを上回る規模の最先端ファブ6棟を建設する計画を検討中だと、複数の台湾メディアが9月に報じた。あくまでも検討段階だが、TSMCが米国生産への本気度をさらに高めている可能性を示唆するものだ。

 一方、サムスンはテキサス州オースティン工場でDRAMやNANDを製造していたが、21年にオースティン近郊の同州テイラーで170億ドル(約2兆6000億円)を投じてロジック半導体工場1棟を建設すると発表。24年には、これに2棟目が加わり、370億ドル(約5兆7500億円)まで増額された。サムスンに対するCHIPSプラス法の補助額はおよそ47億ドル(約7300億円)である。2号棟が完成した段階におけるウエハー生産能力は月産11万枚だ。1号棟における量産は24年開始が予定されていたが、いまだ開始されていない。

インテルに巨額の補助金
スペースXは世界最大の工場建設へ

 この外国勢を中心とした「半導体生産の米国内完結計画」の初期フェーズに加わっているのが、CHIPSプラス法の最大の受益者である米国勢のインテルだ。およそ79億ドル(約1兆2250億円)の民間製造向け補助金と最大30億ドル(約4655億円)の国防向け補助金に加え、最大110億ドル(約1兆7100億円)の融資が約束されているからだ。

 これに加え、トランプ政権の「米国勢によるAI半導体ファウンドリー実現構想」に基づき、インテル株式の9.9%取得と引き換えに米国政府が89億ドル(約1兆3800億円)を同社に出資。外国勢に依存しない自給自足体制への本気度が、ここに表れている。

 近年業績が不振であったインテルは、20年に操業を開始したアリゾナ42号棟の近代化を進めるとともに、CHIPSプラス法の補助金を受けたアリゾナ52号棟とアリゾナ62号棟におけるファウンドリー事業の立ち上げに注力している(最終的な生産能力は未発表)。この他、中西部のオハイオ州で2棟の最先端大規模施設が30~32年に操業開始を予定している。

 こうした中、同社が21年に発表した投資額の200億ドル(約3兆1000億円)は、320億ドル(約4兆9600億円)にまで膨らんだ。インテルは特に、アップル向けの半導体受託製造を本格化させるため、歩留まり改善に取り組んでいる。

 そして26年3月に、さらに大規模な「本命」半導体工場の建設計画が明らかになった。近い将来、一つの会社に統合すると予想されるAI大手スペースXとEV大手テスラが、テキサス州東部のグライムズ郡で、総工費550億ドル(8兆8000億円)規模に上る巨大半導体工場「Terafab(テラファブ)」構想をぶち上げ、8月に本格着工したのだ。テラファブ構想は後続プロジェクトも用意されており、それを含めると投資額は最大で1190億ドル(約19兆400億円)に上るとみられる。

次ページでは、スペースXとテスラを率いるイーロン・マスクが満を持して打ち出した半導体巨大プロジェクトの全貌に迫る。