金融インサイド#46Photo by Yoshihisa Wada

デフレ脱却とインフレの定着で歴史的転換期を迎える日本の金融市場。野村證券の後塵を拝してきたみずほ証券が、反撃に出ようとしている。若い顧客を抱える楽天証券など提携先にマス層の顧客対応を「全振り」する一方、自社の対面部隊は富裕層・事業承継ニーズへ集中配置。長期連載『金融インサイド』の本稿では、「四半期経常利益過去最高」の勢いを駆り、業界首位への下克上を誓う浜本吉郎社長の戦略に迫る。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

デフレ脱却で「貯蓄から投資」加速
NISA枠の拡大で自衛する若い世代

――「貯蓄から投資」へのシフトが進んでいます。国民の投資熱をどのように分析されていますか。

 世の中のメガトレンドとして、2010年代のアベノミクスの頃から仕込みはあったものの、当時は政府の成長戦略や脱デフレ政策に対して「本当にデフレを脱却できるのか」といった半信半疑もあり、株価も追い付きませんでした。しかし、コロナ禍前後を境にトレンドは完全に変わりました。

 ロシア・ウクライナ問題や足元の中東情勢、中国の台頭に対して米国が政治の力で対抗し、分断や供給制約が生じる時代です。日本も「失われた30年」のデフレ構造からコストプッシュ型のインフレへと転換し、その基調変化が足元でさらに顕著になっています。

 それに向き合う家計の在り方も変わりました。昔は「株は損をする」「投資信託は証券会社が手数料を取るだけ」と思われていましたが、完全なレジームチェンジでインフレの世の中になった。今の20~30代の多くは、自分の将来が公的年金だけで支えられるとは考えていないでしょうし、将来同じ水準の公的医療サービスが受けられるか不安を抱いている。

 そうした状況下、国や制度に頼るのではなく「自分の身は自分で守らなければならない」という意識が高まり、つみたてNISA(少額投資非課税制度)やNISAに皆さんが確実に参入しています。

 こうした意識が浸透し、国民の資産形成が進んでいます。これは国の財政負担を減らすことにもつながるため、成長投資枠やつみたて投資枠の上限は撤廃すべきですし、「こどもNISA」を含めた枠の拡大はもっと推進すべきです。個人家計金融資産2400兆円に占める現金・預金の割合が5割を下回る中、株式や投信などのリスク資産へのシフトが進んでおり、この投資へのシフトは今後も確実に進むと考えています。

――投資へのシフトが進む中、みずほグループは楽天証券やPayPay証券といったネットインフラとの協業を進めています。現時点での進捗や手応えはいかがでしょうか。

 楽天証券と業務提携した際、みずほ証券の預かり資産が40兆円強、楽天は20兆円強でした。そこから毎年10兆円ペースで増加しています。4割ほどは株価上昇によるものですが、6割は確実な新規資金流入と口座増加によるものです。楽天はNISAで800万口座を擁し日本一ですし、顧客層が圧倒的に若い。基本は積み立てによる長期保有の資金です。

 このペースで進むと、今年度中に楽天が預かり資産でみずほ単体を逆転します。現在合わせて121.7兆円(26年6月末時点)ですが、30年度をめどにみずほ証券・楽天証券の合算で預かり資産残高200兆円超を目指したい。

 マス層に基盤を持つ楽天の力は絶大です。PayPay証券も182万口座と伸びています。はっきり申し上げて、マス層の顧客セグメントは彼らに「全振り」します。

 われわれが直接のタッチポイントになるのではなく、彼らのアクセスポイントの裏側でわれわれが商品を供給するアプローチです。米スペースXのIPO(新規株式公開)では、国内の購入希望額が1兆円超に達する中、日本向け約3500億円のうちみずほ証券が約8割を販売し、残りは楽天証券などを通じて個人投資家へお届けしました。また楽天カードの社債においても、ネット上の告知から非常に短時間で即完売する圧倒的な販売力を見せています。

マス層対応をネット連携へ集約する一方、みずほ証券は営業人員の多くを富裕層などへの対応に振り向ける組織改革に着手している。新たな体制の全貌と、「野村超え」を目指す戦略の詳細を次ページで明らかにする。