三菱商事の不動産事業トップが明かす“半歩先”戦略、JR東と異例タッグの伊藤忠や大手デベの包囲網に挑む「独自路線」の勝算Photo by Yuji Nomura

総合商社の不動産ビジネスが転換点を迎えている。東日本旅客鉄道との異例タッグで不動産子会社を統合し、5年で売り上げ3倍の約2500億円を狙う伊藤忠商事に対し、三菱商事が掲げるのは「産業型都市開発」という独自路線だ。だが、専業の大手デベロッパーも産業特化領域へなだれ込む中、三菱商事の勝ち筋はどこにあるのか。長期連載『クローズアップ商社』の本稿では、同社都市開発本部長の田村将仁執行役員に戦略の勝算と全貌を直撃した。(聞き手/ダイヤモンド編集部 大川哲拓)

伊藤忠はJR東と統合、丸紅は生保と合弁
大手デベ包囲網の中で三菱商事が狙う「半歩先」

 総合商社が手がける国内不動産ビジネスにおいて、三菱商事は独自のポジションを築いてきた。主力事業会社である三菱商事都市開発の純利益は約100億円規模。これは伊藤忠都市開発(約56億円)や三井物産都市開発(約62億円)といったライバル商社の子会社を大きく上回り、業界トップクラスの収益規模を誇る。

 だが、全社で年間8000億~1兆円規模の純利益をたたき出す三菱商事全体から見れば、不動産の稼ぎはわずか1%程度にとどまる。さらに、足元ではライバル商社が他業種との大型連携によって、一気に規模の膨張を狙う動きを加速させている。

 その象徴が伊藤忠商事だ。

 同社は東日本旅客鉄道(JR東日本)と異例のタッグを締結。両社の不動産子会社を統合し、10月1日に新会社「JR東日本伊藤忠不動産開発」(出資比率はJR東が60%、伊藤忠が40%)を発足させた。JR東日本が抱える広大な社有地と伊藤忠の開発力を掛け合わせ、住宅や商業施設、物流施設開発などを加速。2030年度には売上高を統合前の約3倍に当たる約2500億円に急拡大させる構想を掲げる。

 また、丸紅も25年7月に第一生命ホールディングス(現・第一ライフグループ)と互いの国内不動産事業を統合し、第一ライフ丸紅リアルエステートを設立した。第一ライフグループの巨大な運用資産基盤と丸紅の開発ノウハウを融合させ、アセットマネジメント事業の拡大を急ぐ。

 資材高や用地高で開発リスクが跳ね上がる中、商社各社は単独での戦いに見切りをつけ、スケールメリットと相互補完を追い求めている。

 こうした他社の大規模合従連衡に対し、背を向けるように「単独での独自路線」を維持するのが三菱商事だ。同社がキーワードに掲げるのが「産業型都市開発」だ。

 オフィスビルや分譲マンションを建設して売却する従来型のデベロッパービジネスとは一線を画し、研究開発(R&D)や物流、データセンター、アリーナなど総合商社ならではの産業接点を核にした「面の街づくり」に特化する戦略だ。

 同社は2000年代初めの不動産証券化の波に合わせ、いち早く上場REIT(不動産投資信託)運用会社を設立。開発物件の売却益と運用手数料を得る「回転型ビジネス」を確立した。10年代半ばには、まだ付加価値が乏しいとされていた物流施設の開発に着手し、EC(電子商取引)の急拡大に伴う需要拡大を取り込んだ。現在は、冷蔵冷凍倉庫や自動倉庫といった高機能アセットの開発にも注力している。

 こうした変遷について、同社執行役員の田村将仁・都市開発本部長は「時代の変化に応じて、常に『半歩先』の領域にトライしてきた。総合商社のネットワークを生かして、エッジの利いた戦略を展開するのがわれわれの強みだ」と自負する。

 その象徴が、神奈川県藤沢市の研究開発施設「湘南ヘルスイノベーションパーク」(湘南アイパーク)だ。武田薬品工業の自社研究施設(旧湘南研究所)だった施設が外部開放され、23年に武田薬品や三菱商事などが出資する運営会社体制へ移行。製薬企業やスタートアップ、大学などが集い、約140社が入居する国内最大級の創薬拠点へと成長している。

 現在は施設の目前で建設が進むJR東海道線・村岡新駅(仮称、32年ごろ開業)の周辺開発もターゲットに据える。三菱商事都市開発と東急不動産の2社が23年12月に自治体と協議を進める「事業検討パートナー」に選定されており、周辺の街づくりへの本格参画を狙う。関西でも27年下期に神戸市で賃貸ラボ「アイパーク神戸」を開業予定だ。

アイパーク神戸の完成予想図三菱商事都市開発が開発を進めるアイパーク神戸の完成予想図

 しかし、この「産業起点」という土俵には強力なライバルが立ちはだかる。ライフサイエンス拠点や物流施設、データセンターには三井不動産をはじめとする専業の大手総合デベロッパーが巨額資金を投じて本格参入しており、競争は激化の一途をたどる。

 JR東日本と組んで膨張を図る伊藤忠や生保マネーと組む丸紅に対し、三菱商事はなぜ他社との大型統合に踏み切らないのか。大手デベロッパーの包囲網を前に、“半歩先”の戦略だけで勝ち残ることはできるのか――。

 次ページでは、田村執行役員へのインタビューの一問一答を掲載。「産業型都市開発」の勝算と、同社が描く不動産ビジネスのリアリズムに迫る。