「私が我慢できないのは
スピードがあまりにも遅いこと」

 もう一つ、海の向こうの話を紹介したい。2018年1月2日付の米ロサンゼルス・タイムズに掲載されたブルームバーグ配信の記事に、孫氏の投資交渉の一幕が出てくる。

 当時、孫氏は約1000億ドル規模の投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を立ち上げ、世界中の先端技術企業への巨額投資を進めていた。

 そんな孫氏が2017年5月に東京に招いたのが、米サンディエゴを拠点とする神経科学者、ユージン・イジケビッチ氏だ。彼が率いるブレイン・コーポレーションは、ロボットの「頭脳」にあたる技術を開発していた。

 イジケビッチ氏は孫氏の前で事業を説明した。求めた資金は数千万ドル。10年から20年かけて、ロボットを世の中に広めていくという構想だった。壮大な計画だが、実現までには長い時間がかかる。普通なら、ここから期間や金額が妥当かどうかの吟味が始まるところだろう。

 ところが孫氏は、説明の途中で、もうわかったと話を遮った。そして聞いた。

「あなたの構想を実現するには、いくら必要なのか」

 イジケビッチ氏はすぐに察した。この人は、自分が頼んだ以上の金を出すつもりだ、と。ただし孫氏から条件がつく。開発を大幅に加速することだ。孫氏は10年、20年も待つつもりはなく、3~5年で、さまざまな種類のロボットを実用化させたいと考えていた。

 イジケビッチ氏の側にも、物事の進みの遅さへのいらだちはあったらしい。

「私が我慢できないのは、物事が進むスピードがあまりにも遅いことです。孫氏は、まさに自分と同じ考えの持ち主でした」と記事の中で語っている。

 実際、同年7月には、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが主導する総額1億1400万ドルの資金調達が発表された。

 この場面で面白いのは、孫氏が起業家の持ってきた予定表そのものに手を突っ込んでいる点だ。必要な額を尋ね、その金でいつまでにやるのかを問う。金額が変われば、計画の前提も変わる。2人が交わしていたのは金の話というより、未来が来るまでの待ち時間をどう縮めるかという話だった。