記録的な猛暑が続く今年の夏。さぞや飲料メーカーはウハウハだろうと思われるが、その中で気になるブランドがある。「ボルヴィック」である。当連載の読者にとっては「ボルヴィック」は特別なブランドだろう。ボルヴィックといえば「1L for 10L」プログラム。ボルヴィックを1リットル買えば、アフリカの水に困っている人たちに10リットルの清潔でキレイな水が提供されるという仕組みの「コーズマーケティング」だ。
2007年に開始されたこの「1L for 10L」プログラムは衝撃的だった。なにしろ、CSRといえばまだまだ「慈善」の域を出なかった当時。ほとんどの大企業が「陰徳の美学」といった(間違った)考え方でCSR活動を行ない、「社会のために良いことをしても、けっして大きな声で宣伝してはいけない」という「美徳」が支配的だったあの頃の日本で、テレビCMまで使って「社会のために良いことを始めました!」と大きな声で堂々とアナウンスしてくれたのがボルヴィックだった。この「快挙」に、僕も含む当時の少数派(今は主流派)の「CSRとは企業の成長戦略でなくてはならない」と考えていた人間は大いに喝采したものだった。
ともかく、日本のコーズマーケティングの夜明けはボルヴィックの「1L for 10L」で始まったと言っても過言ではない。ボルヴィックを販売する当のダノンは「決して売り上げ増を目的としたものではない。あくまで、世界の水問題の解決というミッションのためである」とアナウンスしていたが、結果として売り上げ増につながったことは事実である。
ミネラルウォーター市場は価格競争に
僕自身は、もともとボルヴィックが好きで、特に海外旅行に行ったときはボルヴィックばかり飲んでいたが、このキャンペーン以降はさらにボルヴィックを買うようにしていた。ところが、である。いつ頃からか、このミネラルウォーター市場はとんでもない価格競争の時代に入ってしまっている。読者もご存じかと思うが、スーパーやコンビニで売られているミネラルウォーターの価格は、2リットル入りのペットボトルで100円以下。僕が確認した最安値は88円である。
この原稿を書くために先日、近所のコンビニを訪れてみたが、その時に販売されていた某大手国産メーカーの水は2リットルで98円。そして、同じ棚に並んだボルヴィックは1.5リットルで218円。1リットルあたりの価格差は約3倍である。これではいくら「世界の水問題の解決に貢献している」「アフリカの人たちに良いことをしている」と言われても、生活者は安いほうの水を買ってしまうだろう。申し訳ないが、僕も98円の水を買ってしまった。このような現実を見せつけられると、コーズマーケティングの意義を考え直さなければならない。
ここ数年、僕はさまざまなメディアの取材や講演の場で「コーズマーケティングは効きますか?」と聞かれてきた。その質問に対していつも「効きますよ」と答えてきた。実際、僕がヒアリングしたり、関わってきたりした事例では、おおむね対前年比で110%以上の売り上げ増。中には、あのリーマンショック直後に実施して対前年比148%のパフォーマンスを叩き出した例もある。