「企業は社会貢献した方が儲かるし成長する」。連載当初から筆者はそう主張してきた。もちろん、これは、筆者のオリジナルな考え方ではないし、筆者だけが唱えてきたことでもない。

 経営学の神様マイケル・ポーターを筆頭に、世界中の数多くの学者、企業経営者、社会起業家が唱えてきたし、実証もされてきたことだが、最近はこの「社会貢献資本主義」ともいうべき考え方、つまり工場や金融工学が利益を生むのではなく、社会貢献が利益を生み出す「資本」であることが、体系的な理論として確立されはじめている。

 社会貢献資本主義にとって、非常に重要な本が最近、日本でも出版された。ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(大前研一訳 講談社刊)がそれで、簡単に紹介すると、「企業は社会貢献した方が社員のモチベーションが上がって成長するよ」ということを、さまざまな科学的研究成果を元に論じたものだ。

 これまでも、社会貢献に関心のある企業人などは、なんとなくそうかなあと感じていたが、この本はそれを科学的に明らかにした本であるといえる。社会貢献に関心のある人だけでなく、「社会貢献なんて甘っちょろいこと言ってんじゃないよ!! 企業の目的は金儲けだ!!」と信じてやまない守旧派のビジネス・パーソンも、世界的なビッグウェーブに乗り遅れて溺れ死にたくなければ読んでおいたほうがいいだろう。

グラミン銀行とユニクロが提携!
柳井会長も期待するBOPビジネスの可能性

 最近の日本企業の動向を見ていても、勢いがあって利益を出している企業のほうが、この社会貢献資本主義的な考え方をよく理解し実践しているように思える。その代表的な例が、ユニクロ事業を展開するファーストリテイリングだ。なんと、バングラデシュのグラミン銀行と提携して、同国で合弁事業を行なうと発表した。

 当連載の読者にはグラミン銀行の説明は不要だとは思うが、社会貢献初心者のために念のために簡単に解説すると、1日1ドルや2ドルで生活しているようなバングラデシュの最貧困層に数ドル程度の事業資金を貸すというマイクロファイナンスという事業モデルを成功させ、貧困層を救うために必要なのは「施し」ではなくて「投資」だということを実証して見せた銀行だ。この事業モデルは、世界中の金融機関が取り入れ、世界の貧困の解消に大きく役立っている。

 この功績により、グラミン銀行と創始者のムハマド・ユヌス氏は2006年のノーベル平和賞を受賞している。

 グラミン銀行グループはこれまでも、世界的な食品会社であるダノン(ボルヴィックの会社)と提携してグラミン・ダノン・フーズという会社を設立するなど、多くの事業を展開している。これらの事業は単なる営利事業ではなく、バングラデシュの貧困層の生活を向上させる社会貢献事業でもある。今回のファーストリテイリングとの合弁事業もその一環として行なわれる。

 この合弁会社は、貧困層でも購入できる1ドル程度の服を製造し販売する。素材調達から販売まで行なうことで雇用を創出し、バングラデシュの人たちの生活向上に貢献するという。