前回の記事で取り上げたように、日本企業の進出先として、ミャンマーを取り巻く環境は、昨年より確実に改善してきている。それでは、ミャンマーは今まで以上に日本企業の進出においてバラ色な状況なのだろうか。

残念ながら現実は決してそんなに甘くはない。むしろ、依然として進出の現場では、厳しい実態が待っている。そもそも、信頼できる情報が少なく、加えて法制度や行政システムの整備が追いついていない中で、日本企業は進出の検討段階からミャンマーならではの難しさの洗礼を受ける。それに加えて、ミャンマーが世界から注目を浴びるにつれて、新たなリスクも顕著になってきている。今回は、ミャンマー進出において留意すべきこの新たなリスクについて解説したい。

無視できなくなる労務コストの上昇

 今回取り上げたいミャンマー進出の新たなリスクは、下記の6点だ。

(1) 労務コスト上昇のリスク
(2) 不動産価格上昇リスク
(3) 近隣諸国の経済サイクルの影響リスク
(4) “NATO”と見られるリスク
(5) 「昔ながらのやり方」が通じないリスク
(6) 怪しげなコンサルタントリスク

 まず(1)の労務コストの上昇のリスクについて解説する。

 ミャンマーの魅力は、近隣諸国と比較しての人件費の安さだ。特に、近隣の東南アジア諸国と比較しての人件費の安さが、ミャンマーに多くの外国企業が引き寄せられる大きな理由の一つだ。ただ、他の東南アジア諸国と同様に、ミャンマーにおいても給与水準は急激に上昇しており、雇用する側にとって頭の痛い問題になっている。

 ミャンマーでは、昨年の4月に国家公務員の給与が一律で、月額3万チャット(約35ドル)引き上げられた。これは、原則すべての国家公務員に定額で適用され、従って低所得の下位の公務員ほど昇給率が高かった。また、3万チャットは、比較的賃金の低い工場での若手工員の約1ヵ月分程度、また一般の工員であれば1ヵ月の賃金の50%程度の金額だ。この給与引き上げは、国家公務員のみならず、ミャンマーの賃金水準全般に大きな影響を与えることになった。