アメリカの自己破産の6割は
高額な医療費が原因!

 自由と個人主義を重んじるアメリカは、健康保険を強制加入にすると自助の精神を損なうとして、日本のような国民皆保険の導入には反対する声が大きいようです。

 もちろんアメリカにも国が運営する健康保険はありますが、加入できるのは高齢者と低所得者だけ。それ以外の人は勤務先などを通じて民間の医療保険を契約しますが、2008年時点で何の保険にも入っていない無保険者が全米に4570万人もいました。

 企業は、優秀な人材を集めるために、質のよい民間保険と契約することが求められ、その保険料が企業経営を圧迫する原因にもなっています。でも、中小零細企業は高い保険料は負担できません。たとえ加入しても安い保険だと、難癖をつけて保険会社が医療費を払ってくれないこともあるようです。

そんな現状があるため、アメリカで自己破産した人の6割以上は医療費が原因。ですが、そのうちの8割以上が民間の医療保険に加入していたというから驚きです。

 公的な医療保険制度を導入するという公約を掲げていたオバマ大統領ですが、保険会社からの猛反撃に合い、当初の意気込みはあえなく収束。一応の改革は行ったものの、民間の医療保険の加入を義務付け、その保険料を税金で補助することにしただけです。アメリカではますます医療破産が増えるのでないかと危惧されています。

日本の健康保険は強制加入
実はメリットが多いスグレモノ

 日本では、健康保険に加入することを法律で義務付けているので、「私は必要ないから入らない」ということは許されません。収入に応じた保険料も払わなければいけないので、健康保険の強制加入に反発する人もいるようです。でも、国が運営する健康保険がなかったら、病気やケガをしたときどうなるのでしょうか。民間の保険と比較して、国が健康保険を運営する意義を考えてみましょう。

 保険というものは、病気の人ほど加入したいと思うものです。でも、民間の保険会社の立場からすると、健康状態の悪い人ばかりが医療保険に加入すると、病気になる人が多くなって給付金をたくさん支払わなければなりません。そうなると加入者から集めた掛け金(保険料)だけでは、支払いに支障をきたす恐れもあり、保険会社は利益を上げられなくなります。保険会社の使命は、契約条件に沿って保険金を支払うことです。そのため、保険会社では、保険の対象になる人の健康状態などを事前にチェックして、加入させる人・させない人を選別しています。

 安定的に利益を上げていくために、保険会社は病気やケガをしたときに給付するお金は少なくしたい。それには、病気にならない健康な人にたくさん加入してもらうのがいちばんいいので、タバコを吸わない人の保険料を割り引いて、病気になるリスクの低い人が加入してくれるような工夫をします。反対に健康状態の悪い人の加入は断ったり、通常よりも割高な保険料を徴収したりしています。

 健康な人は安い保険料で保険に加入できておトクですが、病気がちな人は保険に入れなかったり、高い保険料を払わなければいけません。でも、営利を求める民間企業では仕方のないことで、彼らに国民の健康を守る義務はないので責めることはできません。

 でも、これと同じことが、国の健康保険で行われたらどうでしょうか。

 病気がちな人は健康保険に入れず、医療費は全額自己負担。お金がなければ医療を受けることができなくなります。療養が長引けば家を売っても医療費が賄いきれないかもしれません。治療を続けることを諦める人も出てくるかもしれません。

 実際、戦前の日本では、農村部や都市部の貧困層で重い病気にかかると家や田畑どころか、子どもを身売りしなければ医療を受けられないという悲劇が常態化していました。強制加入の健康保険は、こうした悲劇をなくすために作られた制度なので、お金のあるなしにかかわらず誰もが平等に医療を受けられるような設計になっています。