期末試験が終わるのを待ちわびて旅支度をしているのは、ブエノスアイレスに住む大学生、エルネスト。喘息もちだけれど、趣味はラグビー。負けず嫌いで生真面目な彼を友達はフーセル(激しい心)と呼びます。でも、良家のお嬢様、チチ―ナという恋人にはメロメロ。4人の兄弟と両親に愛されている、どこにでもいるような青年でした。

 彼は、若さゆえに許されるこの時間を精一杯味わおうと、中古のおんぼろバイク、ポデローサ号を駆り、文字通り体1つで、友人アルベルトと旅に出ることにしたのです。

方法:行き当たりばったり。
目的:本でしか知らない、南米大陸を見ること。
最終到着地:1万キロ先の南米大陸の北端、ベネズエラのグアヒラ半島

 それこそ、どこにでもある、23歳の大学生の青春のひとコマです。しかも、彼の目下の夢は、医大を卒業して医者になること。

 一体誰が、そしてエルネスト自身が、想像できたでしょうか。

 彼が、数年後に「チェ・ゲバラ」になり、伝説の革命家というキャリアを歩もうとは。一体どうして、彼は、そんな道を歩むことになったのでしょうか。

計画された偶発性

 思えば、私たちは良く、「さあ、しっかり計画を立ててキャリアを考えなさい」とか、「あなたの適性を早く見極めて、進むべき進路を決めなさい」と言われて大人になってきたような気がします。小さな頃から譲れない夢や目標がある人には何の問題もないかも知れませんが、そうでない大方の人にとっては、真面目に考え始めると、「一体、自分は何がしたいんだろう。自分の天職って何なのだろう…」と、悩みの迷路に入り込んでいく、そんな経験に繋がったことでしょう。就職してからも、心のどこかで悩み続けいく、そんな人も少なくないはずです。

 そんな私達に、スタンフォード大学の心理学者、J.D. クランボルツは、大胆なことを提案します。「わからないなら、早くから、キャリアに対する大きな意思決定をするのはおよしなさい。それよりも、心をオープンにして、良き偶然の出会いを捕まえて行きなさい」。その考えをPlanned Happenstance(プランド・ハップンスタンス)理論といいます。訳すと、「計画された偶発性」。え?どうして偶発性・偶然が計画されているの?そんなの、変じゃない?そう思う人も少なくないでしょう。

 悶々と考え続けていても、性格テストを受けても、占いに頼っても、人には本当のところ、自分が何をしたいのかは、なかなか分からないものです。自分自身も変わります。周囲も変わっていきます。答えなんて、そもそも、ないのかもしれません。

 でも、ある偶然の出会いや、偶然の出来事により、何か大事なものが私たちの人生にもたらされることが多いのも、事実です。